気象病②ー自律神経との関係ー
2022年9月18日 21:22更新
専門外来コラム
気象病②ー自律神経との関係ー
せたがや内科・神経内科クリニックの専門外来では、気象病外来の他に、自律神経失調症外来もあります。気象病は自律神経のはたらきと関係している点が多く、2つの専門外来を同時に受診される方も少なくありません。自律神経を整える生活の工夫をしていくと、気象病の予防や改善にもつながります。先日の「気象病①」の記事は気象病の導入でしたが、今回は気象病と自律神経の関係についてお話していきます。
ⅰ気象病のメカニズム
・気圧に反応するのは内耳
地球上には、大気圧というものがあります。大気圧というのは、地球を覆っている空気による圧力のことで、人間の体は常にこの圧力を受けて生活しています。数値で示すととても大きな圧力なのですが(10t/㎥)、私たち人間の体が潰れてしまうことはありません。なぜなら、大気圧に対して体内からも同じ分だけ押し返す力がはたらいており、私たちは体感としての影響を受けることがないからです。特に負担などを感じることはありません。
しかし体に負担を感じないのは、気圧がある程度一定である時の場合であり、「気圧変動」が起きたときは違います。たとえば、飛行機に乗った時にお菓子の袋がパンパンになると言われていたり、耳が詰まったような感覚になったりするかと思います。このように、気圧が大きく変化する(上がる・下がる)と、体にも変化が生じます。
気圧の変化を感じるセンサーとなるのは、「内耳」という部分です。耳の鼓膜の奥に位置しています。先ほどの例にもありましたが、飛行機やエレベーターなどで体にかかる圧が変動すると、耳が痛くなったり・こもったりすると思います。これは鼓膜の内側が膨らんでいることによって生じる症状です。内耳で気圧の低下を感じ取ると、それが脳に伝わり、自律神経にも影響が加わります。気象病でめまい(一般的には耳鼻科の症状です)が出るのは、平衡感覚を担っている内耳と関係しています。
・体温調整と関係している自律神経
気象病は、気圧の変化だけでなく、気温や湿度の変化によって不調が起こることもあります。私たちの体温は、発熱していない限りは36~37℃程度で常に一定ですよね。外の温度に限らず体温を一定に保つことができるのは、ホメオスタシス(恒常性)と言って、体の状態を一定の状態(体温・血圧・電解質など)に保つことのできる人間の特性です(参照:コラム/自律神経とホメオスタシス)。
ホメオスタシスを維持するために重要な役割を果たしているのが、自律神経です。自律神経が体のあらゆる条件を微調整していることによって、ホメオスタシスが維持できます。体温で言うと、暑いと汗をかき、寒いと縮こまりますよね。暑さに関しては、末梢血管を拡張したり、汗をかいて体温が下がるようにし、寒さに関しては熱が奪われ過ぎないように末梢血管や筋肉を収縮して熱を産生します。これらの過程には常に自律神経のはたらきが関わっており、寒暖差が大きいと自律神経に負担がかかることになります。
・寒暖差疲労と寒暖差アレルギー
寒暖差によって起こる不調は疲労感とアレルギー様症状です。一般的には、7℃以上の寒暖差があると不調が出やすくなります。寒暖差に合わせて体温調整をするのに、自律神経が酷使されるためです。寒暖差による不調に注意したいのが冬から春にかけて暖かくなる3~4月、秋から冬にかけて寒くなる9月~12月あたりです。衣服による体温調整や冷え・のぼせ対策や環境調整をすることで症状を緩和することができます。
ⅱ気象病と自律神経失調症の違いは?
- 気象病
:気圧や気温の変化(寒暖差)、湿度などの気象条件が変化することによって、心身ともにさまざまな不調が出ることを言います。
- 自律神経失調症
:心身の調子を整えている自律神経のはたらきがうまくいかず、交感神経と副交感神経のスイッチングが適切にできなくなります。それによって出るさまざまな不調(倦怠感、首肩こり、頭痛、めまい、動悸、息切れ、低血圧、胃腸障害、不眠、抑うつなど、自律神経症状と言われているもの)が起こることを言います。
これらの不調に関して、必要な検査を行ない原因が特定されない場合に、自律神経失調症の可能性が高くなります。
気象病と自律神経失調症は似ている部分も多く、関係が深いです。気象病の症状は多岐にわたり、人それぞれ訴える症状が異なりますが、これは気象病が与える自律神経への影響が大きいためです。気象変化によって不調が起きると自律神経の乱れが起きていますし、逆に自律神経が乱れている方は、気象変化に弱く気象病を発症しやすいです。
ⅲ気象病の方は自律神経を整える工夫を
先ほど述べたように、気象病は自律神経との関係が深く、自律神経が乱れている方ほど気象病になりやすいと言えます。自律神経が整っている方は、日常にあるさまざまなストレス(身体・精神・環境など)に耐える受け皿が大きいです。そのため、気圧低下や寒暖差によるストレスが加わったとしても、不調になることなくストレスを乗り越えることができます。しかし自律神経が乱れている方は、はじめから心身ともにストレス耐性が弱くなっている状態です。気象変化に対応するだけのエネルギーが足りず、容量を超えた分だけ不調が出てしまいます。
自律神経は日常生活の工夫やセルフケアによって、整えることができるものです。特効薬のようなものはありませんが、自律神経失調症で不調が慢性化してしまった方でも、生活習慣を変えていくことで具合の悪さを少しでも和らげることが可能です。自律神経に関心を持ち、心と身体を大切にする習慣を作っていくことから始めると良いですね。不調は辛いですが、あまり神経質になり過ぎないことがポイントです。
書籍「気象病ハンドブック」9月発売に向けて
2022年7月16日 19:23更新
専門外来コラム
今年は空梅雨でしたが、猛暑になったり大気が不安定だったりと、体に負担がかかる天気が続いていますね。
一部SNSでは公開いたしましたが、実は今、2022年9月発売に向けて「気象病ハンドブック」という本の執筆に取り組んでいます。
この本は、気象病に悩む方はもちろん、気象の変化でなんとなく調子が上がらない方・雨の日でももっと元気に過ごしたい方など、さまざまな方にとってお役に立つ本となるように力を注いでいるところです。
手に取って頂けたら嬉しいですが、その前に、どんな本なのかだけでも知っていただけたらと思います。そこで、今回は「気象病ハンドブック」のご紹介と製作の裏話などを含めてお話させていただきます。
- 「気象病ハンドブック」が気象病のバイブル本となるように…
「この1冊があれば、気象病のすべてがわかる——」
そんな本を目指して、「気象病ハンドブック」というタイトルを付けました。
現在、完成に近づいてきましたが、まさにタイトル通りのものが出来上がっていると思います。
最近では、「気象病」や「自律神経」という言葉が以前よりも普及してきたと肌で感じています。気象病専門外来を設立して約 6年になりますが、今まで気象病に悩みながら、周囲に理解されないことにも苦しむ患者さんを多く診てきました。気象病はきちんと原因がある不調ですし、原因があれば対策もあります。「気象病がやっと認知されてきた」という気持ちは大きいです。
気象病とは、気象条件の変化(気圧や気温・湿度など)によって起こる心身の不調のことを言
います。最近では気圧を予測するアプリや気圧予報などが多く見られるようになりました。それだけニーズがあるということですね。気象病に特徴的な症状は頭痛や倦怠感・めまいなどですが、症状は本当に人それぞれです。
オンライン診察も一般的になり、気象病専門外来も全国から患者さんが診察にいらっしゃいます。しかし、私の診察時間にも限界がありお伝えしきれないことも多くあります。また、「病院に行くのは気が引けるけれど、気象の変化で何となく不調がある」という方などにも気象病との付き合い方やセルフケアをお伝えすることで、多くの方々が天気に左右されることなく元気に過ごせるように、本を書きたいと思いました。
- 気象病のすべてが詰まっています
私が大切にしているのは、「健康をトータルで考える」ということです。
気象病や自律神経の不調を診察するのに骨格のゆがみに注目してはいますが、人間は他にもさまざまな側面を持っていますよね。身体・心・社会のバランスが整ってこそベストな状態でいられると思います。不調がさまざまであるように、食事や睡眠、運動、メンタル、人との繋がり、社会生活など、その人に必要なアプローチもさまざまです。気象病は気象変化による不調ですが、セルフケアで多方面から補っていくことで症状は改善に向かいますし、うまく付き合っていけるものです。
本書では、私の長年の臨床経験をもとに、気象病の正体・治療・対策まですべてをお伝えし
ています。
- どこから読んでも役立つ本
本書の構成は、前半が知識編、後半が実践編という構成です。
前半は気象病を知るための基本的な知識や、気象病と関係の深い自律神経についてご紹介しています。診察中のような質問形式になっているので、知りたい部分だけを選んで読むことができます。
後半は、生活の中でできる具体的なセルフケアや、骨格のメンテナンス方法(主に運動療法)についてです。気象病と深く関係している自律神経ですが、その自律神経を整えるための要となるのが、「骨格」です。
パーソナルトレーナーさんにもご協力頂き、より専門的で、他の本にはないセルフケアの内容が詰まっています。
- 初公開のセルフケアが充実しています
「気象病ハンドブック」の大きな注目ポイントの一つが、いつもお世話になっているトレーナーさんにセルフケア監修をして頂いたことです。何度も言っていますが、私が専門外来で行っている治療で特徴的なのは、パーソナルトレーナーとの協働治療です。
気象病は自律神経の脆弱さや乱れが大きく影響しています。自律神経を乱したり、不調の引き金となるのが骨格のゆがみです。たとえば、ストレートネックや反り腰、側弯などがありますが、これらのような骨格の歪みがあると首肩こり・頭痛・めまいなど不定愁訴が起きやすくなります。
私は、気象病や自律神経の患者さんの症状を診ていますが、ストレッチなどのセルフケア指導はできても、骨格そのものを治すことは難しいです。
そこで、筋肉・骨格・運動のプロであるパーソナルトレーナーさんの力をお借りして、気象病の方々の治療を行っています。(パーソナルトレーナーによる運動療法や骨格の調整の介入が無くても、投薬や簡単なセルフケアで良くなる患者さんも多くいらっしゃいます)
そのトレーナーさんに監修いただき、一緒に本を作ったことで、今まで公開してこなかった具体的なセルフケアが充実しています。個人的には、トレーナーさんのお名前もやっと公開できることがうれしいです。
気象病専門外来の医師として…
この本は私にとって、ターニングポイントとなる一作です。
昨今、気象病が注目され始めていますが、気象病に関する知識とセルフケアがここまで具体的に書かれているものはまだ無いのではないかと思っています。
また、医師とパーソナルトレーナーが協働して製作できるのは、現段階の日本ではとても珍しいことです。医療と健康、両者の専門家によるセルフケアなので、気象病に苦しむ方、不調なのに気象病であることにまだ気づいていない方など、さまざまな方のお役に立ってほしいと願っています。
気象病について-入門編-
2022年6月7日 22:27更新
専門外来コラム
気象病について-入門編-
今年は早い時期から気温が上下したり、気圧や湿度が変化したりと、自律神経に負担がかかる日々が続いていますね。私は5年以上前から気象病専門外来や自律神経失調症専門外来を開設していますが、最近ではやっと「気象病」や「自律神経」という言葉が世の中に普及してきたように思います。特に気象病に悩まされている方がとても多く、治療やセルフケアがより多くの患者さんに行き届いてほしいと願うばかりです。
梅雨の季節になってきたので、今回は気象病の導入について書いていきます。
・気象病とは?
▹気象の変化によって起こる不調
季節の変わり目や梅雨・台風の時期などに具合の悪くなる方はいませんか?
気象病とは、気圧や気温の変化(寒暖差)、湿度などの気象条件が変化することによって、心身ともにさまざまな不調が出ることを言います。
正式な病気として認定されている訳ではないですが、気象病は患者さんの生活に支障をきたしてしまう辛い不調です。重症度は「雨の降る前は何となく不調」という方から、「寝込んでしまって学校や仕事に行けない」という方までさまざまなケースがあります。
症状も非常に多岐にわたります。最も多いのは頭痛ですが、全身倦怠感やめまい、首肩こり、起床困難、低血圧、抑うつなど、心身、そして全身にさまざまな不調が出やすいです。
▹気象病は自律神経とセットで考える
気象病と深く関係しているのは自律神経です。
気圧の変化や寒暖差、湿度の変化などが起こると、自律神経がその変化に合わせて体温調整や身体のコンディションの調節がなされます。そのため、気象変化が激しい時ほど自律神経は酷使されていることになります。
何らかの要因で元々自律神経が乱れている方やストレスの多い方などは、気象病にもなりやすいです。逆に、気象病の治療や対策に加えて、自律神経を整えるためのメンテナンスをすると、気象変化に強い体づくりにつながります。
・気象病の方は増えています
最近では、「自分は気象病なのでは…?」と思われている方が多いです。まずはチェックをしてみましょう。
▹チェックリスト
1 天候が変わるときに体調が悪い
2 雨が降る前や天候が変わる前になんとなく予測ができる
3 頭痛もちである
4 耳鳴りやめまいが起きやすい
5 肩こり・首こりもち
6 姿勢が悪い。猫背・反り腰などがある
7 乗り物酔いをしやすい
8 スマホやパソコンを使用する時間が長い(1日4時間以上)
9 ストレッチや柔軟をすることが少ない
10 歯の食いしばり、歯ぎしり、歯の治療が多い。顎関節症がある。
11 年中エアコンが効いた環境にいることが多い
12 日常的にストレスの多い生活をしている
13 更年期障害ではないか?と感じることがある(男女ともに)
※1・2にチェックがつけばほぼ気象病と言って良いでしょう。3~13に3つ以上チェックがついた方は、予備軍と考えて良いです。
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▹なぜ気象病が増えているのか?
実際に私の気象病専門外来でも、患者さんが増加しています。
気象病の方が増えている要因はいくつも考えられますが、ここでは2つ挙げていきます。
1つは、世の中に「気象病」というという言葉や薬などが普及してきたことにあります。気象変化でなんとなく不調を感じていた方が、テレビや雑誌などをきっかけに、ご自身が気象病であることに気づいたケースですね。患者さんとお話していると、「やっとわかってもらえる病院を見つけた」「今までは気のせいと言われて辛かった」などの言葉を聴くことが多いです。隠れている気象病の方はまだまだ多くいらっしゃると感じています。
もう1つは、世の中が自律神経の乱れやすい環境になっており、単純に気象変化による自律神経系の不調を訴える方が増えていることにあります。最近ではスマホやパソコンを使用するのは当たり前、情報過多、異常気象などストレスフルな社会となっているように感じます。コロナ禍になって尚、ストレスが増えた方は多いでしょう。
スマホなどの長時間の使用は骨格のゆがみを招き、自律神経が乱れやすい体になります。また、脳に負担のかかる生活やストレスの多い日常は、自律神経を弱くしてしまう原因になります。自律神経が乱れていると、気象変化のストレスにも耐えきれずに気象病につながることが多いです。
・気象病の症状
気象病の症状は、本当にさまざまです。頭痛を訴える方が多いですが、他にも症状がたくさんあります。
・頭痛(もともと緊張型頭痛、片頭痛を持っている方は、ともに悪化しやすいです。)
・全身倦怠感
・首こり、肩こり
・めまい
・耳鳴り・耳がこもった感じ
・消化器症状(吐き気・胃痛・下痢・便秘など)
・動悸
・低血圧・血圧の変動
・朝起きられない
・メンタルの不調
・古傷の痛み、関節痛
・神経痛
・咳が出やすい・止まらなくなる(喘息のような症状)
・鼻炎
・冷え性(手足、体幹、体全体)
・手足のしびれ
先ほども書きましたが、最も出やすいのは頭痛です。気象病の方の80%以上の方に出ています。次に多いのは、全身倦怠感・だるさ。次に、首肩こり(これは気象に関わらず慢性的に持っている方が多いです)、めまい、朝起きられない、低血圧などです。
・気温や湿度も意外と大切
気象病専門外来にいらっしゃる患者さんの不調要因は、以下の割合です。
気圧:8~9割
気温:1~2割
湿度:湿度のみでの来院はほとんどなし
気象病は、気圧の変化による不調を訴える方が多いですが、気象条件は他にもあります。気象病の方は「気圧・気温・湿度」の3つをポイントにして生活していくと良いでしょう。
気温の変化(寒暖差)は疲労感や頭痛、冷え・のぼせ(体温調節の不良)などを引き起こすことが多いです。また、「湿度が原因で不調が出ます」と言って来院する方は少ないですが、湿度が不調と関係しているのも間違いありません。
湿度を下げると、同じ気温でも体感温度が下がります。そのため、湿度の対策をするだけで身体の熱がこもりにくくなり、自律神経にかかる負担を減らすことができるのです。梅雨や夏場は、睡眠の質の改善に役立ちます。
自律神経のしくみ ⑤ 自律神経と骨格の話
2022年4月25日 23:38更新
専門外来コラム
自律神経と骨格の話
私が行う自律神経失調症外来・気象病外来の最大の特徴は「骨格のゆがみと自律神経」に着目した治療です。一見、「背骨のゆがみや姿勢の悪さがそこまで体調と関係あるの?」と思われるかもしれません。私もそう思っていた過去があるのでわかります。しかし、原因のわからない自律神経の不調に悩まれている方こそ、筋肉や骨格のアプローチに可能性があると思いますよ。
・自律神経が乱れている人は骨格が歪んでいる
私は自律神経失調症外来・気象病外来・頭痛外来などの専門外来を始めて約7年経ちますが、自律神経が乱れている患者さんのほとんどが、背骨の弯曲や歪みがあります。ストレートネックや左右の肩の高さの違い、軽い側弯症、反り腰や平背、骨盤の高さの左右差などがあります。
骨格が歪むと、私たちの体にとってさまざまな不都合が生じます。骨格が歪んで姿勢が悪くなっている分だけ別の場所に負荷がかかり、さまざまな場所の筋肉が凝ることになります。たとえばストレートネックは、首が前に出ている分だけ頭の重さが何倍も首にかかることになります。そもそも頭の重さは4~6kgあるため、その倍になるだけで大きな負担です。その影響で首こり・肩こりが進むと、頭痛などの不調が出ます。
骨格のゆがみがある方は、頭痛だけでなくめまい・倦怠感・動悸・息苦しさ・胃腸不良・耳鳴り・低血圧など、あらゆる不調を抱えている方が多いです。
・骨格や背骨に着目する理由
①自律神経には呼吸が大切
自律神経にとって最も重要といっても過言ではないのが「呼吸」です。呼吸は無意識にできている方の方が多いと思いますので、命に関わる程苦しくならない限りは、そこまで重要視できないかもしれません。しかし、自律神経の不調を抱えている方こそ呼吸が浅く、うまく酸素や栄養が全身に回っていない方ばかりなんです。
呼吸と言えば、肺や胸を想像しますよね。骨格が歪んでいると胸郭が硬くなり、呼吸がしにくく、浅くなります。首や腰が痛い方は、一見首や腰そのものに問題があるのでは?と思う方もいるかもしれませんが、実は胸椎や胸郭の動きに問題がある方が多いです。
②脊椎と自律神経の関係
自律神経の通り道を知っていますか?
自律神経は、脳と脊髄から始まり、各臓器や器官に分布していく神経です。
交感神経系は胸・腰髄から出ますが、副交感神経のルートは脳幹および仙髄から出て、それぞれ各器官に指令がいきます。実は、脳幹から腰髄までのラインは、脊椎(頚椎・胸椎・腰椎・仙椎)のラインと同じです。首・背骨のことですね。
骨格が歪んでいると、自律神経の伝達ルートが妨げられてしまいます。まっすぐな道を進むのと、くねくね曲がったり、狭い道があったりすると通りづらいですよね。ちなみに背骨が歪んでいると、脳脊髄液の流れも悪くなってしまいます(自律神経と脳脊髄液も密接な関係があります)。どちらにせよ、自律神経のはたらきが悪くなる原因になってしまうのです。これも、私が骨格や首・背骨に注目している理由です。
③背骨の動きと自律神経
先ほども言いましたが、私が重要視しているのが胸椎です。首肩コリ、腰痛などがある方は、実は胸椎や胸郭が固くなって、ほとんど動いていないことが多いです。胸郭の動きを良くするためには、背骨全体の動きを良くすることも大切です。ストレッチやヨガ・ピラティスは背骨を意識できるよい運動だと思います。
背骨や胸郭の動きを良くすると、今まで動いていなかった部分のロックが解除されたようになり、血流が良くなったり体の動きが良くなったりします。すると、自律神経をつかさどっている視床下部(脳)に酸素や栄養がより行き渡るので、自律神経のはたらきが良くなります。体の動きが改善すると身体的なストレスが減ることになるので、自律神経の負担も軽減しますよね。
④良い姿勢が体にもたらす効果
アメリカのある研究によると、人は姿勢を良くすると、前かがみなどの悪い姿勢よりもストレス耐性が上がると言われています。姿勢をよくして、抗重力筋を刺激することで、脳内にたくさんのセロトニンが分泌され、ストレスを感じにくい状態を作ります。
・気象病との関係
気象病にも触れておこうと思います。自律神経と気象病はとても深い関係にあります。
最近、気象病の認知度が上がってきたこともあり、「気象病は内耳の部分が問題なのでは?」と言われることが多いです。確かに内耳は気象病のメカニズムで重要な要因ですが、内耳だけが悪いというわけではありません。
内耳は頭蓋骨の中にあり、頭蓋骨は頚椎とつながっております。頚椎は胸椎と、胸椎は腰椎と、腰椎は骨盤群と下肢と足底までつながっています。人間の体は、骨格で構成されているので、「内耳の場所が体の中心線からどの程度ずれているのか」ということが診断の目安になっています。
内耳が安定しておらず揺れやすい状態にあるということは、より内耳が不安定な状態になりやすいと考えてください。骨格は気象病の方にとっても大切ですね。
自律神経のしくみ ④ 自律神経と脳の関わり
2022年4月18日 18:57更新
専門外来コラム
自律神経と脳の関わり
脳といえば、人間にとって重要な器官のひとつですよね。自律神経にとっても、脳は深い関わりがあり重要な存在です。
脳は神経細胞を通して、心と身体から受け取る情報を管理しています。そして自律神経は、その脳の視床下部という場所によってコントロールされています。
自律神経を語るうえで視床下部は大切な存在です。脳の話も少し難しい言葉が多いかもしれませんが、心と身体とのつながりも含めてご説明していきます。
- 脳は心と身体のコントロール役
脳は神経細胞を通して、心と身体の機能を管理しています。
まずは心の機能。私たちは「うれしい」「悲しい」などの感情を「心」という言葉を使って表現しますよね。実は、これらの感情はすべて頭の中で起こっている現象です。脳は場所ごとに、感情や思考、記憶、学習などを担当するエリアに分かれています。心、つまり感情は脳がつかさどる機能の一つに含まれます。
一方で身体の機能についてはどうでしょうか?手足を動かすことができたり、心臓が動いていたりするのも、個々で動いているという訳ではありません。脳が神経細胞に指令を送っているおかげで、身体の各臓器や器官がうまくはたらき続けることができます。
- 自律神経は脳の視床下部に支配されている
1.視床下部は自律神経系の最高中枢
自律神経は、本人の意思とはかかわりなく内臓や器官に作用しています。ホメオスタシスを保つために、24時間365日休まず体の状態を微調整しているのでしたね(前回のコラム「自律神経とホメオスタシス」より)。
自律神経のはたらきは、脳の視床下部という場所によってコントロールされています。「視床下部は自律神経系の最高中枢」と呼ばれているほど。脳の中ではとても小さな部分ですが、人間のホメオスタシスの維持に最も重要な役割を果たしています。
2.脳を構成する3パーツ
脳は大きく分けて①大脳②小脳③脳幹の3つのパーツから成り立っています。視床下部は、③脳幹(間脳・中脳・橋・延髄)のなかの、さらに間脳(視床・視床下部)という場所の中です。また、①の大脳は「大脳新皮質」と「大脳辺縁系」の2つのエリアに分かれています。大脳新皮質はものを知覚・思考・判断するなど、知性をつかさどるはたらき、大脳辺縁系は食欲や性欲、快・不快、怒り・驚きなどの情動をつかさどるはたらきがあります。視床下部はこの大脳辺縁系の影響も強く受けながら、自律神経活動の調整を行っています。
- 自律神経は「本能」に反応する
視床下部は大脳辺縁系などの影響を受けつつ、脳幹や脊髄に作用し、自律神経活動へとつながります。とくに大脳辺縁系からの情報が大きく影響しており、自律神経は本能的な欲求や情動・感情などに反応します。
たとえば、急に大きな音がしたとしましょう。この時、大脳辺縁系に「驚き」という感情が生じます。驚きに反応した視床下部は自律神経の交感神経を興奮させ、交感神経は心臓の鼓動を速めたり、血圧を上げたりするのです。
- 自律神経は心の動きにも敏感
1.理性と本能のバランス
私たちは、理性と本能という、相反する感情のバランスをとりながら生きています。理性の部分は大脳新皮質、本能の部分は大脳辺縁系(視床下部も大きく関与)が強く影響を受けているのでしたね。しかし、本能的な喜怒哀楽が生じたときに、理性が強くはたらいて感情を抑制する方が強くなってしまうと、大脳新皮質と大脳辺縁系の間に混乱が生じます。
たとえば、「つらい」「苦しい」などの感情を理性で抑制してしまうと、視床下部はうまく情報を受け取ることができません。すると、視床下部は自律神経のコントロールもうまくできなくなってしまうため、自律神経失調症を引き起こすきっかけになるのです。
2.ストレスが長期化すると…
本来であれば、「つらい」「苦しい」などの感情が起こると交感神経が反応しますが、しばらくすると副交感神経がはたらいて、安定した状態に戻ります。しかし、ストレス状態が長期間にわたると、交感神経はずっと興奮したままです。副交感神経のスイッチが入りにくくなったり、切り替えがうまくいかなくなったりと、視床下部の自律神経コントロール力が乏しくなっていくと考えられています。
- なるべく「自由」を大切に
私が臨床で自律神経失調症の患者さんを見ていて思うのが、ストレスや感情を抑制しすぎてしまっている方が多いということ。中学生や高校生にもよくみられます。このストレス社会で「本能のままに」というのは少し難しいですが、不調を抱えている方こそなるべく我慢をせず、自由や開放、安心などを大切にして頂けたらと思っています。ストレス発散やリフレッシュ、リラックスが大切と言われているのはこのためでもありますよ。
【出典】
・久手堅司監修.面白いほどわかる自律神経の新常識.宝島社.2021
・鈴木郁子編著.やさしい自律神経生理学.中外医学者.2021
・久保木富房監修.専門医が治す!自律神経失調症 ストレスに強い心身をつくる、効果的な療法&日常的なケア
・エレインN.マリーブ.R.N.人間の構造と機能.医学書院
自律神経のしくみ③ 自律神経とホメオスタシス
2022年1月23日 17:42更新
専門外来コラム
■自律神経とホメオスタシス
ホメオスタシスという言葉をご存じでしょうか?
以前の専門外来コラムでは、「自律神経は内臓や血管などのはたらきを24時間、休まず自動的に調整してくれるシステム」ということでした。実はその調整には、「人間に本来備わっているホメオスタシス(恒常性)」という機能が深く関わっています。
ホメオスタシスという言葉は医療用語なので難しいかもしれませんが、一度理解すれば、自律神経のお話も今まで以上に深く学習できると思います。今回は、ホメオスタシスと自律神経の関係についてお話ししていきますね。
・人間の体に備わっているホメオスタシス機能
まずは「ホメオスタシスとは一体何なのか?」という問題からご説明していきます。
・ホメオスタシスの意味
ホメオスタシスとは、「外界がたえず変化していたとしても、体内の状態(体温・血液量・血液成分など)を一定に維持できる能力のこと」です。ホメオスタシスという言葉そのものは、「変化しない」という意味を持ちます。しかし人間の場合は、全く変化しないというよりは、ある一定の狭い範囲を変動している平衡状態と捉えてもらった方が良いかもしれません。
私たち人間の体は、数十兆個の細胞からなっています。それが一定の営みを続けていられるのは、ホメオスタシスを維持できているおかげです。たとえば私たちの体温は、約36℃程度に保たれています。外が暑い・寒いに関わらず、体温は一定ですよね。
ごく当たり前のことのように思われますが、もし体温が高くなった時に「体温を一定に維持しよう」という機能がはたらかないと、体に熱がこもったままになり、脳がうまく機能しなくなってしまいます。「体温が高くなったら、体温を下げるためにはたらこう(発汗など)」というプロセスは、ホメオスタシスを保つために脳にインプットされているはたらきなのです。
・ホメオスタシスが崩れるとどうなるか?
ホメオスタシスを維持するようなはたらきは、脳にプログラミングされています。とくに、脳の視床下部という部分が自律神経の調整をしているため、ホメオスタシスのはたらきが崩れると、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかなくなります。
先ほど挙げた体温を例にとるなら、体温調節がうまくいかなくなり、冷えやのぼせの症状がでます。日本は寒暖差の激しい時期があるので、体が寒暖差に対応しきれず体調不良を引き起こすことになるのです。
・自律神経とホメオスタシスの深い関係
自律神経は、ホメオスタシスを維持するために、バランスを取りながら微調整を続けています。私たちを構成している数多くの細胞にお休みはありませんよね。常にホメオスタシスを維持するため、自律神経も24時間365日、休まずオートマティックにはたらいているのです。日中になれば交感神経が優位になり、人間活動を促します。リラックス時、眠前には副交感神経が優位になり、人間に必要な休息をもたらします。
寝ている時にも無意識に呼吸が続き、多少の暑さ寒さ・湿度の変化があっても寝続けていられるのは、自律神経がその時々の体の状態に応じて対応しているからです。
私たちの体はとても繊細で、優秀につくられているのです。
・不規則な生活が自律神経に良くない訳
・人間は規則正しい生活をするようにできている
「自律神経の乱れを治すには、規則正しい生活をしましょう」という言葉をよく耳にしませんか?これは本当です。自律神経は不規則な生活に弱いです。わかりやすい例が睡眠リズム。人間は、朝に起きて夜に寝る、朝に交感神経が優位になり、夜に副交感神経が優位になる、このようにできています。ホメオスタシスを維持するためです。
夜勤や交代制勤務で体調を崩す方が多いのは、人間の本来のコンディションに反することをしているからです。副交感神経が優位になるべき時間に無理やり起きていたり、交感神経が優位になるべき時間に眠らなければいけない生活をしていると、体に刻まれているリズムやホメオスタシス機能が混乱を起こします。その結果、自律神経の調節もうまくいかなくなり、さまざまな不調が現れます。
・自律神経が弱いと不規則に対応しきれない
そもそも自律神経が乱れていると、本来持っている微調整のはたらきも弱くなってしまいます。周囲の環境やストレスの影響をもろに受けることになるのです。自律神経の乱れている方が、体温調整ができずに冷えやのぼせを訴えられていたり、不眠や朝起きられないなどの症状があるのは、自律神経の微調整やスイッチングがうまくいっていない代表的な例です。
とすると、自律神経にとって、規則正しい生活をするのは大前提です。「夜寝る前にスマホを触らない方が良いです」と私が言っているのは、スマホを触ることが骨格のゆがみを引き起こすのもありますが、寝る前に脳を興奮させて交感神経が刺激されてしまうためでもあります。自律神経の不調がすでにある方はもちろん、そうでない方も、人間の本来あるべき生活リズムを送るように心がけると、より体調が良くなるかもしれませんね。
・参考
・久手堅司監修.面白いほどわかる自律神経の新常識.宝島社.2021
・鈴木郁子編著.やさしい自律神経生理学.中外医学者.2021
・久保木富房監修.専門医が治す!自律神経失調症 ストレスに強い心身をつくる、効果的な療法&日常的なケア
・エレインN.マリーブ.R.N.人間の構造と機能.医学書院
自律神経のしくみ②:交感神経と副交感神経
2022年1月11日 20:53更新
専門外来コラム
自律神経のしくみ②:交感神経と副交感神経
こんにちは。前回の専門外来コラム「自律神経のしくみ①」では、自律神経はそもそも何なのか?という点に注目して書きました。
自律神経は、内臓や血管などのはたらきを24時間、休まず自動的に調整してくれるシステムです。その自動的なシステムは、交感神経と副交感神経がバランスよくはたらくことによって成り立ちます。
今回は、交感神経と副交感神経のふしぎについて書いていきます。
- 自律神経は2種類で構成されるー交感神経と副交感神経ー
自律神経は、交感神経と副交感神経がバランスよくはたらくことで機能しています。
どんなに暑くても寒くても、私たちの体温が36℃~37℃の範囲で一定に保たれていますよね。このように、体内の環境は、ある一定の範囲の状態に保てるようにつくられています。これを恒常性(ホメオスタシス)と言います。
自律神経はこの恒常性を保つために必須のシステムです。
交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキ。お互いがシーソーのようにバランスを取りながらはたらくことによって、体の状態を良いコンディションに保っています。
交感神経と副交感神経は24時間365日はたらいています。どちらか一方だけのスイッチが入っている訳ではありません。そのため、交感神経のはたらきが強いときは「交感神経が優位」、副交感神経の方が強くはたらいているときは「副交感神経が優位」と表現します。
- 交感神経のはたらき
①交感神経の役割
交感神経は、体と心が「興奮モード」のときに優位にはたらきます。たとえば、運動をしているときは心臓の鼓動が速くなったり血圧が上がったりしますよね。それ以外にも以下のようなはたらきがあります。
・脳血管を収縮させる
・瞳孔の拡大、涙の分泌を抑制する
・唾液が出づらくさせる
・気管支を拡張させる
・心拍数を増やす
・消化を抑制する
・排便・排尿を抑制する
・(暑い時など)汗を分泌して体温を下げる
・(寒い時など)鳥肌を立てて熱を発生させる
・末梢血管を収縮させる
②交感神経が優位なときに出やすい症状
・頭痛(緊張性頭痛)
・眩しさ、目が乾く
・口が乾く
・動悸、息苦しさ
・便秘、下痢
・胃痛、腹痛
・体温調節がしづらい(熱がこもる)
・過緊張、首肩こり
交感神経が過度に優位になると、アクセル全開になりすぎるため不調につながります。慢性的にストレスがかかっていると、交感神経を優位にしてがんばるしかありません。その代償に、首肩こりや頭痛、動悸など、上記の症状が発生します。
③交感神経のスイッチが入るタイミングは?
・日中
・興奮したとき
・驚いた時
・ストレスを強く感じたとき
・緊張したとき
・不安を感じているとき
・危険を感じたとき
私たちは人間活動をするために、本来は日中に交感神経のスイッチが入るようにできています。日常生活はストレスで溢れていますよね。交感神経は悪いものではありませんが、私たちの生活の中には交感神経のスイッチが入れる要素がたくさん潜んでいることを、頭の片隅に入れておきましょう。
- 副交感神経のはたらき
①副交感神経の役割
副交感神経は、体と心が「お休みモード」のときに優位にはたらきます。リラックスしているとき、体の力が抜けて脈がゆっくりになるのはこのためです。その他にも、副交感神経は「消化」のときに優位にはたらきます。心地よい環境でゆっくり食べた方が消化に良いのは副交感神経のおかげです。
・脳血管を拡張させる
・瞳孔を収縮させる
・サラッとした唾液を出す
・気管支を収縮させる
・心拍数を減らす
・消化を促進する
・排便・排尿を促進する
②副交感神経が優位なときに出やすい症状
副交感神経はリラックスの印象が強いので「体に良いもの」と思われがちですが、副交感神経のはたらきが強すぎたり、適切なタイミングではたらかなかったりすると、不調の原因になります。
・頭痛(片頭痛)
・涙が出る
・徐脈(脈が遅くなりすぎる)
・だるさ・朝起きられない
③副交感神経のスイッチの入るタイミングは?
・眠っているとき
・リラックスしているとき
・食後にゆっくりしているとき
・癒しを感じたとき
夜になると眠くなるのは、副交感神経のスイッチが入るようにできているからです。「規則正しい生活をしましょう」とよく言われますが、これは「人間に備わっている自律神経のリズムを乱さない生活」という意味になります。夜勤や当直、昼夜逆転の生活が体によくないのはこのためです。
- 大切なのは交感神経・副交感神経のバランス
交感神経・副交感神経の2つはどちらがいいという訳ではなく、両方がオン・オフになり、状況に応じてバランスよく切り替わる状態が理想的です。
日中、学校の授業や仕事に集中したい時には交感神経が優位になって「興奮モード」にならなければ活動ができません。夜、ぐっすり休んで疲れを取るためには「お休みモード」になることが必須ですよね。
しかし、ストレスがかかって慢性的に緊張状態になると、夜も「興奮モード」がはたらいてしまいうまく休むことができません。これが積み重なると、自律神経のバランスが乱れてスイッチの切り替えが上手くいかず、不調につながるのです。
- 自律神経のはたらくルートと脊椎(背骨)の位置
交感神経と副交感神経では、体内の通るルートが違うのを知っていますか?
交感神経は脊髄の外側から出たあと、お腹側を回り、体の各器官に分布していきます。
それに対して、副交感神経は、脳の下部(首のあたりです)にある中脳・橋・延髄から出て体の各器官に分布するルートと、脊髄の下部にある(腰のあたりです)骨盤神経から腸や膀胱・生殖器に向かうルートがあります。
「緊張すると胃がキリキリする、お腹が痛くなる」
「首や腰を温めてほぐすとリラックスする」
このようなシーンを想像すると、自律神経のはたらくルートと背骨や内臓の位置は何かつながりがあるのかもしれませんね。私は外来に来る患者さんにピラティス(背骨の動きを重視している運動です)をおススメしているのですが、「眠れるようになった」「胃腸の調子がよくなった(機能性ディスペプシアが改善した)」という方が多くいらっしゃいます。
≪参考≫
・久手堅司著.最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方.クロスメディアパブリッシング.2018
・久手堅司監修.面白いほどわかる自律神経の新常識.宝島社.2021
・鈴木郁子編著.やさしい自律神経生理学.中外医学者.2021
自律神経のしくみ①自律神経とは何者なのか?
2021年12月21日 18:05更新
専門外来コラム
自律神経のしくみ①自律神経とは何者なのか?
こんにちは。
専門外来コラムをリニューアル中です。なかなか更新ができていなかったのですが、自律神経の不調や気象病についてきちんとまとめていきたいので、もう一度。
以前のブログの内容と重なっている部分があるかと思いますが、新しい情報も入れていきますね。
今回は自律神経の正体について書いていきます。
「自律神経」「自律神経失調症」「不定愁訴」など、意味が曖昧だったり、症状が幅広かったりして難しいと思います。医学的なことは少し難しいですが、これから体調を整えるためにご参考になればと思います。
『現代人の9割が乱れている自律神経』
「自律神経の乱れ」や「自律神経の不調」という言葉をよく聞きますよね。自律神経失調症専門外来を始めて5年以上経ちますが、パソコンやスマホの普及、コロナ禍の自粛疲れやストレスなどにより、自律神経の乱れによる不調をきたす方がより目立つようになりました。
自律神経の不調の症状は多岐にわたります。
・頭痛
・首・肩こり
・めまい
・疲労感・だるさ
・不眠
・動悸・息苦しさ
・低血圧
・胃腸の不調
・不安感・抑うつ・・・
症状は人それぞれなのでこれ以外にもありますが、上記の症状が多いです。
自律神経は、「生命を維持するために24時間はたらいているシステム」。本来であれば、私たちの身体と心を健康な状態に保ってくれるためのものです。しかし、自律神経は繊細です。ストレスの影響を大きく受けてしまいます。
精神的なストレスをはじめ、残業や疲労などの身体的ストレス、気圧や気温の変動による環境的なストレスなどにより、現代人の生活環境は厳しいものになっています。そのため、自律神経が乱れている人がほとんどなのです。
そして、忘れてはいけないのが骨格のゆがみ。骨格のゆがみや姿勢の悪さも、自律神経を乱す立派なストレスになっています。後ほど触れていきます。
『自律神経とはそもそも何なのか?』
自律神経のはたらき
自律神経とは、名前の通り、全身に巡っている神経の1つです。
簡単にいうと、
「生命を維持するために24時間、全身をコントロールしているシステム」。
難しいのでもう一歩踏み込んでいうと、
「内臓や血管などのはたらきを自動的に調整してくれる神経」です。
たとえば、
・寝ている時でも呼吸ができるようにしたり、心臓の鼓動が動き続ける
・ご飯を食べると自動的に胃腸が動いて消化活動がはじまる
・暑くなれば発汗をして体温を下げて適温にする
などは、すべて自律神経のはたらきのおかげです。人間の体は、体内の環境を一定の範囲内に保つようにできています(これを恒常性といいます)。自律神経は、この恒常性を保つために24時間休むことなく体の状態を微調整しているのです。
全身を巡る神経のうちの1つ
人間の体には、脳や内臓・血管などのさまざまな器官がありますよね。それらを支配して、うまくはたらくようにコントロールしているのが神経です。情報伝達の役割があります。
神経は大きく分けて2種類、より細かく分けると4種類です。
①中枢神経
脳と脊髄で構成されており、体の中心です。人体の「司令塔」の役割をしています。脳のイメージが強いかもしれませんが、脊髄(首から背骨に沿ったラインです)も重要な神経です。中枢からの指令を末梢神経に伝えたり、末梢神経が持ってきた全身の情報を受け取ります。
②末梢神経
末梢神経は、体にあるそれぞれの器官と細かいやり取りを行っています。脳や脊髄から来た指令を全身に伝えたり、逆に各器官から来たメッセージを中枢に伝えたりします。網目のように全身に広がっています。末梢神経はさらに「体性神経」と「自律神経」にわかれます。
(1)体性神経
体性神経はさらに「感覚神経」と「運動神経」にわかれます。やっとイメージつきやすい名前が出てきましたね。人間が活動をするうえで不可欠な神経です。体性神経は自分の意思でコントロールできるのがポイントです。
・感覚神経:温かい、冷たい、痛い、やわらかいなどの感覚を感知して、脳に伝えています。
・運動神経:手や足、首や口などの体の部分を動かす役割があります。
(2)自律神経
ようやく登場です。中枢を構成している脊髄は、脳の視床下部から腰まで(首から背骨のライン)をケーブルのようにつなげる神経の束ですが、自律神経もこの束から全身に分布しています。私が「自律神経と背骨のゆがみ」に着目しているのは、この点が関係しています。
自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つにわかれています。
・交感神経:心身が活動的で興奮しているときに優位にはたらく
・副交感神経:心身がリラックスしているとき、食べ物を消化しているときに優位にはたらく
交感神経・副交感神経については他のコラムで詳しく書こうと思います。
自律神経失調症とは?ー心身症とのちがいー
自律神経失調症の症状
日常生活や社会生活に支障が出るくらいの身体的な症状があるのにもかかわらず、「検査で異常が出ない」場合、自律神経失調症の疑いがあります。またその場合、自律神経系だけではなく、ホルモンや免疫のバランスも同時に崩していることが多いです。
症状は冒頭にも少し書きましたが、以下の通りです。
《全身症状》
・だるい
・眠れない
・疲れがとれないなど
≪器官的症状≫
・頭痛
・首・肩こり
・動機や息苦しさ
・めまい
・立ちくらみ
・のぼせ・冷え
・胃痛・吐き気・食欲不振
・下痢や便秘など
≪精神的症状≫
・情緒不安定
・イライラや不安感
・うつなど
当院にいらっしゃる患者さんについて
ちなみに当院の自律神経失調症専門外来にいらっしゃる患者さんは、このような方が多いです。
・自律神経失調症と診断されたが、どこの病院に行っても改善しない
・今の自分の問題は、体調不良がメインなのに、精神的なもの?と言われる。とくにプレッシャーを感じていたりはしていないが、精神的なものなのか心配
・ネットなどを見て自律神経失調症と思ったから、受診した
いずれにしても「症状がつらいのに理解されない」「病院に行っても相手にされない」「心療内科に回されるけど、心当たりがない」というお話をよく聴きます。
心身症とのちがい
心身症という病気を知っていますか?何らかのストレスが身体の症状に出ると、「心身症なのではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。心身症は「身体の病気の背景に、心理社会的な要因が関係している病態」です。自律神経失調症と似ているようで違います。
≪心身症≫
・特定の臓器や器官に症状が集中する
・明らかな身体疾患が生じる(胃かいよう)など
※胃かいようがすべて心身症というわけではありません
・体質や生活習慣によるものではなく、心理社会的な要因が症状に直結する
≪自律神経失調症≫
・多数の臓器や器官に症状が現れる
・明らかな身体疾患はない
・症状が不安定で、出たりで消えたりする
・心因のときもあるが、体質や生活習慣の乱れが影響する
心理的・精神的ストレスで自律神経失調症が悪化することもあるので、「自律神経失調症=精神的なものではない」と説明する時に伝わりづらいのが現状です。
見過ごされてきた「背骨・骨格・姿勢」と自律神経の関係
私は自律神経の不調を診るにあたって、「骨格の歪み」「背骨の状態」「姿勢」「筋肉の凝り」などに着目しています。なぜなら、骨格が歪んでいると、自律神経のはたらきが悪くなり、呼吸も浅くなって、自律神経失調症を引き起こしやすくなるからです。
長年の臨床経験からも、骨格の歪みにアプローチすることで元気になる患者さんを多く見ています。もちろん骨格だけではなく、食事や睡眠などの生活習慣や精神面も考慮することも必要ですので、患者さんを診察するときはトータルで判断するようにしています。
≪参考文献≫
・久手堅司著.最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方.クロスメディアパブリッシング.2018
・久手堅司監修.面白いほどわかる自律神経の新常識.宝島社.2021
・久保木富房監修.専門医が治す!自律神経失調症.高橋書店.2016
・鈴木郁子編著.やさしい自律神経生理学.中外医学者.2021
・厚生労働省/自律神経失調症
://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-082.html
チメロサールフリー(インフルエンザワクチン)
2021年10月14日 11:26更新
専門外来コラム
当院ではチメロサールフリーのインフルエンザワクチンを用意しております。
一般のワクチンでは、殺菌作用のある水銀(防腐剤)が含まれておりますが、チメロサールフリーのワクチンではそれらが含まれておらず体内蓄積による副作用などの心配がございません。
妊娠中の方で不安要素をできるだけ取り除きたい方や、小児などに適しています。
ご希望の方は数量に限りがありますので事前にお問合せ下さい。
自粛冷え ウーマンウェルネス研究会 にて
2021年2月16日 09:00更新
専門外来コラム
2021/2/1にウーマンウェルネス研究会にて、上記リンクで記事を掲載してもらいました。
下の分は上の原文そのままですが、グラフや絵を入れていないため分かりにくいと思います。上記リンクを参照されて下さい。
コロナ禍での室内換気や厳冬で、例年よりも冷えや寒さを感じている人が6割以上 「首温活」で解消!この冬の“自粛冷え*”対策
女性の健康力向上を通した社会の活性化への貢献を目指す『ウーマンウェルネス研究会supported by Kao』(代表: 対馬ルリ子/産婦人科医)では、コロナ禍で迎えた今冬の「身体の不調と冷え」について、首都圏在住の553人(20代~50代男女)を対象に調査を実施しました。
調査によると、新型コロナウイルスが感染拡大して初めての冬を迎え、6割以上の人が例年と比べて冷えや寒さを感じており(グラフ(1))、特に今冬は感染症対策のための窓開け換気もあり、家の中や職場、バスや電車といった屋内での冷えや寒さを感じていることが分かりました(グラフ(2))。
*当研究会では、今冬ならではの厳しい寒さや感染症対策での窓開け換気、外出自粛による運動不足や ストレスで血行不良となり、冷えが加速し身体の不調を引き起こす状態を“自粛冷え”と名付けました。
また、2人に1人が例年と比べ、首・肩の不調を感じており(グラフ(3))、その不調は冷えや寒さを感じている人ほど現れていることが明らかになりました(グラフ(4))。
ウーマンウェルネス研究会では、今冬ならではの厳しい寒さや感染症対策での窓開け換気、外出自粛による運動不足やストレスで血行不良となり、冷えが加速し身体の不調を引き起こす状態を“自粛冷え”と名付けました。
このような、コロナ禍の今冬ならではの冷えや寒さによる身体の不調について、せたがや内科・神経内科クリニック(東京・世田谷)院長の久手堅司先生にお話しを伺いました。
■今冬ならではの“自粛冷え”の要因
1、厳冬+窓開け換気による室内冷え
今年の冬は10年ぶりのラニーニャ現象の発達による厳しい寒さに加え、感染症対策として、こまめに窓を開けて換気をしていることもあり、屋外だけでなく、室内でも冷えや寒さを感じやすいようです。
2、自粛生活での運動不足による血行不良
テレワークや自粛生活が続き、外出の機会が減ったことで多くの人が運動不足を感じています。運動不足により、血行不良となり冷えが加速しています。
3、不安やストレスによる、自律神経の乱れで起こる血行不良
コロナ禍の現在、例年と比べ、9割以上の人が外出時に感染予防を意識して緊張を感じているなど(グラフ(5))、日常的にストレスにさらされていることが伺えます。ストレスにより自律神経が乱れると、血行不良となり、また体温調整がうまくいかなくなり、冷えやすくなります。
■様々な不調を引き起こす身体の冷え
2人に1人が例年に比べ、首・肩の不調を感じていることの背景には、「冷え」が大きく関係しています。身体が冷えると筋肉が硬くなり、首・肩のコリが更に悪化してしまいます。また、疲れやだるさ、胃腸の不調など様々な身体の不調を引き起こします。
■自粛冷えには「首温活」が効果的
首には頸動脈という大きな血管があり、皮膚のすぐ下を走っています。首を冷気にさらすと、この頸動脈が冷え、大量の血液が冷やされ体温が奪われてしまいます。逆を言えば、首を温めることで全身を効率よく温めることが出来るのです。また、副交感神経が優位になることで緊張がほぐれ、血流が良くなります。血流が良くなることで、疲労物質が押し流されるため、首・肩コリの改善に繋がることから、自粛冷え改善には「首温活」を始めてみましょう。
◇蒸しタオルや温熱シートで首を温める
首を温めると、温まった血液が全身をめぐり、血流が良くなるので、首・肩コリの改善にも繋がります。冷えや疲れを感じたときには、蒸しタオルをあてたり、外出時は温熱シートを活用したりすることで手軽に首温活ができます。
◇炭酸入浴で血行促進&リラックス
炭酸ガス入りの入浴剤を入れた38℃~40℃のぬるめのお湯に15~20分程度、首までつかりましょう。最初に首まで温めることで、全身の血行が良くなり、冷え、首・肩こり、疲労感がやわらぎます。また、副交感神経が優位になることでリラックスすることが出来、ストレスの緩和に繋がります。
◇手軽に行えるストレッチ・マッサージ
【タオルストレッチ】
首にタオルを当てて、斜め上を向いたり、下を向いたりしながら、首まわりの筋肉をまんべんなくストレッチします。長時間デスクワークが続くときは、1時間に1~2分程度行うのがおすすめです。
【耳マッサージ】
耳たぶの少し上を、水平方向に5~10秒ほど引っ張ります。耳まわりがリラックスし、首がポカポカしてきたら、正しく行えている証拠です。繰り返しこまめに行いましょう。耳を上下に動かすのもおすすめです。
監修 : 久手堅 司(くでけん つかさ)
<意識調査概要>調査方法:インターネット調査/調査期間:2020年12月21日~12月28日
調査対象:首都圏の20歳~59歳の男女553名/調査内容:身体の不調と冷えに対する意識調査
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●ウーマンウェルネス研究会supported by Kaoとは
『ウーマンウェルネス研究会supported by Kao』は、現代女性のライフステージごとに異なる様々な心身の不調を解消し、女性が健康で豊かな生活を送り充実した人生を実現することを願って、医師や専門家、企業が集い2014年9月1日に発足いたしました。女性のウェルネス実現のために、公式サイト「ウェルラボ」(http://www.well-lab.jp/)やイベントなどを通じて、女性が知っておきたい健康の基礎知識や不調への対応策など、心身の健康に役立つ情報を発信します。
●ウーマンウェルネス研究会の概要
・発足日: 2014年9月1日
・医師・専門家(50音順)(敬称略)
対馬 ルリ子 (産婦人科医、対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座院長)
小島 美和子 (管理栄養士、有限会社クオリティライフサービス 代表取締役)
川嶋 朗 (統合医療医、東京有明医療大学 保健医療学部鍼灸学科 教授)
中村 格子 (整形外科医、スポーツドクター、医療法人社団BODHI理事長)
福田 千晶 (産業医、内科医・リハビリ医、人間ドック専門医、健康科学アドバイザー)
渡邉 賀子 (漢方専門医、麻布ミューズクリニック名誉院長)
・協賛: 花王株式会社、パナソニック株式会社 (あいうえお順)
・Webサイト: 『ウェルラボ』: http://www.well-lab.jp/ (2014年9月11日OPEN)
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本件に関するお問合わせ先
ウーマンウェルネス研究会 事務局
事務局 :TEL: 03-4570-3167/FAX : 03-4580-9128 / Email : info@well-lab.jp
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