気象病③ 寒暖差疲労・寒暖差アレルギー
2022年11月26日 13:02更新
専門外来コラム
気象病③ 寒暖差疲労・寒暖差アレルギー
最近は急に寒くなったり、突如ぽかぽか日和になったりと、1日の間や前日との気温差が大きくなっています。寒暖差疲労専門外来では、10月・11月にかけて、寒暖差による不調を訴える患者さんが多かったです。今年は特に患者さんが2倍ほど増えており、テレビや雑誌などの取材も例年以上と感じております。「寒暖差疲労」という言葉も少しずつ広まってきていますね。一般的には、気象病は低気圧(気圧の上下)のイメージがありますが、気温の上下、つまり寒暖差で起こる不調も気象病に当てはまります。
・寒暖差疲労とは?
急激な気温の変化が繰り返されると、体温調節をするために自律神経の乱れが激しくなります。自律神経は心身の働きに関与している重要な神経であるため、自律神経が酷使されると心身のエネルギーも消耗されます。それによって疲労感・倦怠感、頭痛、冷え性、首肩こりなどの不調が生じることを「寒暖差疲労」と言います。
寒暖差には、以下の3つのパターンがあります。
①1日のうちに起こる最低・最高気温の差
②前日と当日、週単位での寒暖差
③室内外の寒暖差(冷暖房・電車なども)
寒暖差は常に生じていますが、基本的には7℃以上の温度差があると不調が出やすくなります。春や秋は1日の気温差が10℃以上になることも少なくないので、注意が必要です。症状のうち最も訴えが多いのは疲労感・倦怠感、次は冷え・首肩こり、その次は頭痛・めまいです。
・寒暖差アレルギー
急激な気温差によって、アレルギーのような症状が出ることもあります。具体的には鼻水、鼻づまり、咳、くしゃみなど、アレルギー性鼻炎によく似ており、これを「寒暖差アレルギー」といわれています。
自律神経は血管の拡張・収縮に関係しているのをご存じでしょうか。鼻にたくさん通っている毛細血管が、気温差の大きい環境に対応しきれず血管の調整がうまくいかないため、症状として現れます。また寒暖差に限らず、季節の変わり目は気候の変動が激しく気道が過敏になりやすいので、呼吸器が弱い方や喘息持ちの方は調子が悪くなりやすいです。今年は、寒暖差による鼻水や咳などの風邪・アレルギー症状を訴える方が多かったです。
・気温の変化と自律神経の関係
人間の体温は、外の気温に関係なく36℃~37℃程度で一定に保たれています。これは、外気温の変化に応じて体の熱を産生していたり、逆に熱を放出したりして体温を調節しているためです。寒さや暑さは皮膚を通して感じますよね。その情報は脳の視床下部という場所の体温調節中枢に伝えられ、自律神経系や内分泌系、体性神経系を介して熱の産生と放出のバランスを取っています。ホメオスタシスを維持するために自律神経が微調整を担当して体温調節しています。
たとえば気温が上昇して暑さを感じると、以下の現象が起こります。
副交感神経による血管収縮能が抑えられ、血管が拡張して、皮膚表面での熱交換が行われる。
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それで体温上昇に対応的ない時には、発汗が起こる。発汗時の気化熱にて、体温を下げる。
↓
「発汗=水分の排泄」となるため、バソプレシン(詳しく調べる)というホルモンが増え、尿排泄量が減る。
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反対に、気温が低下して寒さを感じた時は、以下の通りです。
交感神経により皮膚の血管が収縮、体表から熱が逃げていくのを防ぐ
↓
交感神経の作用により、副腎皮質ホルモン(アドレナリン)、甲状腺ホルモンの分泌が増える
↓
内臓で熱が作られる(新生児の場合は褐色細胞組織での熱産生も高まる)
↓
「ふるえ」を起こして熱の産生を増やす
寒暖差が大きいと、上記の微調整を繰り返す必要があり、自律神経が乱れやすくなります。
・寒暖差に対するセルフケア
寒暖差が大きくなると、日中は暖かいですが朝晩は冷え込みが強まりますよね。体が冷えると、血流が悪くなり、体の機能が低下してさまざまな不定愁訴が出やすくなります。寒暖差によって外気が寒くなったときは、必要以上に体を冷やさないことが大切です。
≪自律神経に効果的な入浴法≫
体を温めるための基本は、入浴でゆっくり体を温めることです。夏はシャワーで済ませてしまう方も多いと思いますが、秋に向けてお風呂に入る習慣をつけてみましょう。冷え性や自律神経の不調をお持ちの方、女性などには、エプソムソルトや炭酸風呂などをお勧めしています。
エプソムソルトにはマグネシウムが多く含まれており、リラックス効果や筋肉を緩める作用が、緊張した体をほぐしてくれます。マグネシウムは皮膚からの吸収が良いため入浴剤でも効率よく体内に取り込むことが可能です。自律神経の不調を抱える方には手軽に取り入れてみて頂きたいものの一つです。一方、炭酸風呂は、炭酸ガスが吸収されることで血管が広がり、体温が上がります。こちらも血行が良くなるので冷え対策に役立ちます。
お風呂に入っているときは、首まで浸かり、余裕があればふくらはぎや鎖骨下のマッサージをすると良いと思います。もちろん、ぼーっとリラックスしても大丈夫です。首には人間にとって大切な大きい血管や自律神経の通り道があります。首を温めて首肩こりを改善すると、全身の血流アップにつながりますし、自律神経のケアができます。
たとえば頚椎1番(首の付け根・耳や鼻と並ぶ位置にあります)を意識して「うん、うん」と頷くように首を縦に動かす(10~20回ほど)、次に頚椎2番を意識して横に首を振るように動かすと(同じくらいの回数)、普段は固まりやすい首の骨や筋肉の動きがよくなり、凝りが改善します。頭痛予防にもなるので、お風呂で時間のあるときにやってみましょう。
≪服装の工夫≫
寒暖差に応じた衣服の調整は、一般的にも言われていることですが、ポイントを知っておくとより効果的に体温調整できると思います。私がおすすめしているのは、マフラーやネックウォーマー、レッグウォーマー、腹巻・ホットパンツの3つです。太い血管の通り道である首・手首・足首、内臓が集中しているお腹を冷やさないようにしましょう。3つの中で意外と薄着になっている場所が足首です。足首が硬い方や足首を露出した恰好をすることが多い方は、冷えを引き起こしやすいです。デスクワークが多い方はぜひレッグウォーマーも活用してみましょう。
体が冷えすぎている方は、冷え症状と一緒にのぼせの症状も出る場合があります。「冷え性なのにのぼせもある」という方は、体の芯は冷えているのに頭や体の表面だけが暑くなっている方が多いです。のぼせてしまった場合は、頭や頬、手のひらなどを一時的に冷やすと、こもった熱が出ていきます。
参考:鈴木郁子(編著).やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み.中外医学社.2015
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