2025・9 気象病が女性に多い理由は?―自律神経や女性ホルモンとの関係―
2025年9月3日 06:44更新
専門外来コラム
2025・9
気象病が女性に多い理由は?―自律神経や女性ホルモンとの関係―
9月になり、台風や秋雨前線の影響で再び気象病が気になる季節になりました。気象病とは、気象変化によってさまざまな体調不良が起こることを言います。気象病の症状を訴える人は女性が多いですが、当院を受診される患者さんの中では、女性は7~8割を占めています。気象病が女性に多いのは、女性ならではのさまざまな特徴が関係しています。たとえば、女性ホルモン、貧血、低血圧、筋肉量・骨格、冷え性・むくみなどです。また、特にホルモンや筋骨格の要素は自律神経の乱れにも大きく関わっており、自律神経が乱れていると気象病も起こりやすくなります。
- 気象病と自律神経の深い関係
気象病と自律神経は密接な関係にあります。気圧低下や寒暖差などの気象変化が起きると、それに体を適応させるために自律神経が反応して乱れるためです。たとえば、気圧が下がった時、内耳にあるセンサーが気圧の低下を感じ取り、その情報が自律神経の中枢に届きます。気圧低下という変化に対して微調整を行うために交感神経・副交感神経のバランスが乱れ、不調につながります。そのため、気象病の症状と自律神経の不調の症状は似通っているところがあります。そして、自律神経が乱れている人は気象病になりやすいです。
- なぜ気象病は女性に多いのか?
[女性ホルモンの影響]
女性には月経周期ごとにホルモンバランスの大きな変動があります。女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンの2種があり、自律神経にも影響を及ぼします。特に排卵後から生理前はプロゲステロンが増えて、副交感神経が優位になりやすく、だるさや眠さなどが出やすくなります。一方で、ホルモン低下期には不安・イライラなどの心の不調が出やすくなります。このように、生理周期や更年期などでホルモンバランスが乱れると、自律神経も乱れやすくなります。自律神経は気象変化にも敏感であるため、自律神経が乱れていると、気象病の症状がより出やすくなります。
[筋肉量が少なく冷えやすい]
女性は筋肉量が少ないため、体の熱を産生する量が少ないです。そして血流が悪くなりやすいため女性は体が冷えやすく、自律神経の乱れを助長します。冷えると特に交感神経の緊張を招き、血行不良、頭痛、肩こり、不眠などの症状が出やすいです。また、寒暖差疲労になると、体が感じる大きな温度差に体温調整が追いつかず、冷えの症状が出る場合が多くあります。その影響で気温や湿度の変化で冷えが悪化し、不調の悪循環に陥りやすいです。
[片頭痛の有病率が高い]
片頭痛はもともと女性に多く、数でいうと男性の約3倍と言われています。片頭痛は気圧や天気の変化に影響を受けるため、天候が悪くなったり季節の変わり目になったりすると片頭痛が悪化しやすいです。気象病で最も訴えが多い症状が頭痛ですので、気圧の変化などで頭痛は起こりやすく、気象病に女性が多い一因ともなっています。
[ライフイベントによるストレスや変化が多い]
妊娠・出産、育児、更年期など、女性はライフイベントによって生活スタイルやホルモンの変化が大きいです。これに伴い、心身のバランスも崩れやすく、自律神経が安定しにくい傾向があります。自律神経が苦手としているのが「変化」です。そのため、様々な変化が重なると自律神経が乱れ、気象病が発症しやすい状況ができあがります。
- 女性特有の気象病症状
[月経痛・PMS(月経前症候群)・更年期症状の悪化]
女性ホルモンと自律神経には深い関係があるため、女性のホルモンバランスに大きな変化が訪れる月経前後や更年期に気象変化が重なると、症状が重くなることがあります。実際、PMSの症状を持つ女性の3人に1人が天候の変化で症状が酷くなると言われており、頭痛、倦怠感、腹痛・気分の落ち込み・イライラ・不眠などのPMS症状が天気の変化と連動して強くなることがあります。そして更年期の女性は、ホルモンの急激な変化で自律神経が乱れやすく、その状態で気象の影響を受けるとのぼせ・ほてり・めまい・倦怠感などが悪化しやいです。
[冷え性やむくみ]
女性は元々冷えやすい体質にありますが、低気圧が訪れると体に水分を溜めこみやすくなるため、血行が悪化し、冷えやすくなります。低気圧の状態は、飛行機に乗るのと似たような状況です。飛行機でポテトチップスの袋が膨らむ現象があるように、私たちの体も大気圧が変化することによって膨らみ、むくみとして現れます。
[メンタルの不調(気分の落ち込み、涙もろさなど)]
気象病による自律神経の乱れで、うつや不安感、情緒不安定などメンタル面での不調が起こることがあります。特に雨の日や曇天が続くと、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が減りやすいため、精神的に沈みやすい状況です。気圧が下がるのと同時に、不可抗力で気持ちの急降下が起こる人も少なくありません。「気圧のせい」だと自覚ができると少しは気持ちが楽になるでしょう。
- 女性の心と身体のバランスを整える運動
[ヨガ・ピラティス・背骨リセット]
背骨は自律神経の通り道であり、背骨を意識して動かすこの3つの運動は自律神経を整える効果があります。ゆっくりとした深い呼吸をすることで、ストレスを軽減したり、不安の解消、睡眠の質の向上などが期待できます。また、血流が良くなるため、PMSや月経痛の緩和にも役に立つでしょう。ピラティスや背骨リセットは体幹の筋力を強化する効果もあり、筋肉量が少なく冷えやすい女性の健康全般の健康面のサポートになります。
[ウォーキング(特に朝の散歩)]
ウォーキングは無理なく手軽に続けやすい運動の代表例です。外に出て太陽光を浴びるとセロトニンが分泌され、うつ傾向を予防し気分が向上します。有酸素運動は「心の鎮静剤」ともいわれており、メンタル面の底上げになるでしょう。
[ダンス・エクササイズ(ズンバ・バレエなど)]
音楽と一緒に体を動かすことで、ドーパミンやエンドルフィンといった快感系のホルモンが分泌されるため、気分転換・ストレス解消にぴったりの運動です。自分を表現することが自信や解放感にもつながります。
自律神経に優しい環境づくりと夏でもできるセルフケアー
2025年8月7日 06:51更新
専門外来コラム
夏に気をつけたい自律神経の不調は?―自律神経に優しい環境づくりと夏でもできるセルフケアー
梅雨が明け、台風が通過しない限りは、気象病を気にせずに過ごせる期間に入りました。梅雨明け後は夏を楽しみたいところですが、最近の夏は35℃以上の高温、熱帯夜、湿度も高く、うだるような蒸し暑さが長期間続くようになりました。危険な暑さや熱中症警戒アラートのために外出を控える人も珍しくなくなり、室内で過ごす時間が増えていると思います。その結果、熱中症以外にも夏に起こりやすい不調や対策も変わってきており、私たちも日々アップデートしなければいけません。夏の過ごし方は秋の体調にも影響しますので、夏の体のメンテナンス法を身に付けましょう。
- 夏に気をつけたい自律神経の不調
[冷房病]
冷房病とは、冷房の効いた環境に長時間いることによってさまざまな不調が出ることを言います。正式な病名ではありませんが、夏の代表的な不調の一つです。冷房病で起こる不調は、自律神経や冷えによる血行不良が関係しています。症状は、冷え・むくみ、首肩こり、倦怠感、胃腸の冷え(食欲不振、腹痛、下痢など)、女性の場合は月経に影響が出ることもあります。最近では熱帯夜が続いているので夜間も冷房を付けっぱなしにする方が大半だと思いますが、冷房病の影響で朝から体がぐったりしていることもよく聞くお話です。
[夏の寒暖差疲労]
寒暖差疲労といえは春や秋のイメージですが、夏は室内外の気温差の影響が大きいです。寒暖差疲労というのは、私たちの体温調節を担当している自律神経が急激な温度差にうまく対応しきれず、疲労感、冷え、首肩こり、頭痛などさまざまな不調が起こることを言います。夏の場合は、冷房の効いた室内環境と35℃を超える外気を行き来すると、大きな温度差を体験することになります。すると、体温調節がうまくいかなくなり、自律神経が乱れて不調につながります。疲労感、倦怠感、頭痛、めまい、食欲不振、不眠、冷えやのぼせ、肌トラブルなどが主な症状です。自律神経の乱れ、血行不良が関係しているという点では冷房病と似ています。
[不眠]
近年の夏は熱帯夜が当たり前になっており、蒸し暑さによる不眠が起こりやすいです。私たちは眠っている間、大量の汗をかきます。夏は気温が高いだけでなく湿度も高いため、汗が蒸発しにくく、不快感や体温調節の不良が影響して睡眠の質を下げてしまいます。また、夏は活動的なイメージがあるかもしれませんが、1日中冷房の効いた部屋で過ごし、運動不足になる季節へと変化してきました。そのため、日中の活動不足で眠りづらくなっている現状もあるでしょう。
- 湿度が与える自律神経への影響は意外と大きい
[湿度と自律神経]
自律神経には体温調節を行う役割がありますが、湿度が高いとその機能が乱れやすく、交感神経が過剰に優位な状態になります。また、湿度が高いことで汗が蒸発しにくく、体温がうまく下がらないため、体に熱がこもります。すると、熱中症のような症状、頭痛、吐き気、ほてり、だるさなどが出やすいです。
[湿度と体感温度]
みなさんは湿度と体感温度の関係をご存じでしょうか。私たちの体は、湿度が高いと暑く感じ、湿度が低いと涼しく感じます。湿度が高いと汗が蒸発しにくくなるため、体が熱をうまく逃がすことができず、暑さを感じやすくなります。特に、湿度が70%以上になると体感温度が急激に上昇し、実際の気温より5℃以上も高く感じることもあります。反対に、湿度が低いと汗が蒸発しやすくなるため、体温が効率よく下がります。
・気温25℃ / 湿度60% → 体感温度は約27℃~28℃程度
・気温30℃ / 湿度80% → 体感温度は35℃以上に感じることも
・気温25℃ / 湿度40% → 体感温度は23℃~24℃程度に感じやすい
このように、湿度が高いと、私たちの体は気温以上に暑さを感じます。そのため、湿度をコントロールすることが快適な生活には不可欠です。
- 自律神経に優しい夏の過ごし方
[冷房病の対策]
冷房病対策のポイントは自律神経の乱れを防ぎ、冷えによる血行不良を避けることです。室温を26~28℃に設定し、強く冷やし過ぎないこと、そして直接風に当たらないことをお勧めします。冷え対策のグッズとしては、ひざ掛け、上着、ストール、レッグウォーマー、靴下(足首が隠れることが大切です)を活用すると良いでしょう。首・足首・手首、お腹には大きな血管が流れているため、この4点を守るようにすると冷えすぎるのを予防できます。また、飲みものはなるべく温かいものを飲み、夜は入浴で体の内側から温めると良いでしょう。
[寒暖差疲労の対策]
まずは寒暖差が起きにくい環境調整をしましょう。急な温度差が発生しないように、冷房の温度設定を低くし過ぎず、そして扇風機などの風を使って空気の流れを作ると良いと思います。寒暖差疲労に対してできることは、服装でも体温調節ができるように工夫すること、入浴で冷えのリセット、こまめな水分・ミネラル補給、睡眠の質の確保、軽い運動やストレッチ、深呼吸でリラックスなどです。
[湿度を考慮した環境調整]
適切な湿度調整をするだけでも、暑さによる不快感や自律神経の不調が起きにくくなります。まずはエアコンの除湿機能を使用して体感温度を下げる工夫をしてみましょう。夏は湿度50%を目安に、ご自身が快適と思える湿度を探してみてください。さらに、風通しが良いと湿度がこもりにくくなり、涼しさを感じることができます。サーキュレーターや扇風機を活用して空気の流れを作りましょう。また、夜は除湿器を活用しながら、通気性の良いシーツや寝具・冷感マットなども併せて使用することで、「涼しいけれど体が冷えない」と思う環境を探せると、不眠の解消につながると思います。
- 夏でも続けたい背骨の運動
夏は自律神経が乱れやすく、運動不足にも陥りやすいため、心身のメンテナンスが難しい季節になってきています。疲労の溜まる日々だからこそ、自分自身のメンテナンスは欠かしてはいけません。そこで、室内でもできる運動をご紹介します。
[ヨガ]
ヨガは呼吸法とストレッチを組み合わせた運動で、自律神経の調整に効果があります。初心者でも手軽に始めやすく、室内で行えるため、無理なく継続できます。ヨガのポイントは呼吸です。呼吸に集中することで、副交感神経が優位になり、リラックスすることができます。
[ピラティス]
ヨガと似ているようで異なるのがピラティスです。ピラティスは体幹を鍛える運動が多く、呼吸と筋肉を意識的に使うため、自律神経のバランスを整えるのに効果があります。背骨リセットの効果もあり、私は患者さんにもピラティスをお勧めしています。特に、背骨を意識して姿勢を正すことが多いため、日常生活の中での体の使い方にも良い影響を与えます。
[背骨リセット]
背骨は自律神経などの大切な神経の通り道です。背骨が歪んでいると自律神経が乱れる原因になり、夏の暑さにも耐えられなくなってしまいます。背骨のリセットは、体の中心軸を整え、姿勢の改善、筋肉の緊張緩和、体幹の強化、血行促進、内臓の調整、自律神経機能の活性化など、さまざまな効果があります。日々継続していくことで不調の起こりにくい体の土台を作ることができます。
気象病治療に効果のある五苓散の使い方
2025年7月4日 07:27更新
専門外来コラム
気象病治療に効果のある五苓散の使い方
日本の異常気象が進むにつれて、気圧や気温の大きな変化で体調を崩される方が増えました。気象病専門外来を始めて約9年経ちますが、年々、気象病の認知度が高まっていると感じています。気象病の治療薬として数年前から注目されているのが、五苓散という漢方薬です。昨年、学会誌で「気象変化に伴う頭痛に対する五苓散の有効性と安全性」という題目で論文を発表させて頂きました。気象変化によって体調不良を訴える患者さんが増加しているという現状もあり、気象病の治療や五苓散などに関心を持つ医師も多く、気象病治療の需要の高さを実感しています。
205/6/7には、日本東洋医学会総会にて、ランチョンセミナーで発表をさせて頂きました。800名以上の現地での参加者があり、気象病への認識の高さが強いと再認識しました。
今回のコラムでは、東洋医学における気象病の捉え方や五苓散についてご紹介していきます。
- 気象病は水滞によって起こる
東洋医学において、健康とは「気」、「血」、「水」のバランスが整っている状態と捉えます。そして、気と血と水のバランスが崩れたとき、不調が出ると考えます。気象病は、「水滞」といって「水」のバランスが崩れており、水の巡りが滞った状態です。「水」は血以外の体液のことを指し、組織液やリンパ液がそれに当たります。気圧の変化が起こると、体内で水の流れや水の状態に異常をきたし、気象病に特徴的な頭痛やめまい、倦怠感といった症状が出やすくなります。
- 「水」のバランスチェックをしてみましょう
「水」のバランスを見るために、以下の項目に当てはまるかどうかチェックしてみましょう。多く当てはまる方ほど体が水滞に偏った状態と言え、気象病の症状も出やすいです。
・浮腫みになりやすい
・天気が悪いと体調が優れない
・雨が降る前など、天気が変わることを予測できる
・めまいや耳鳴りが起こりやすい
・軟便・下痢ぎみ
・頭が重い
・体が重い
・車酔いしやすい
- 気象病の薬物治療は五苓散からスタート
[五苓散の効能]
五苓散という漢方は、体内の水分バランスを改善する代表的な利水薬です。副作用が少なく、飲みやすいのも特徴です。五苓散は、ソウジュツ、ブクリョウ、チョレイ、タクシャ、ケイヒという5つの生薬が配合された漢方です。五苓散には、体のむくみが取れて気象病の症状を和らげるはたらきがあります。気象病に限らず、頭痛やめまい、むくみ、二日酔いなどの改善にも広く用いられます。
[気象病での使い方]
気象病の方にまず私がお勧めする五苓散の飲み方は、定期投与です。定期投与というのは、1日2~3回、決まった時間に、一定期間飲み続けることを言います。飲み始めは体に溜まった余分な水分が排出されるので、尿がいつも以上に出たり、頻尿になったりすることがありますが、徐々に落ち着いてきます。一旦、水分バランスを整え、症状のコントロールがついてきたら、症状が出た時や気圧変化が大きい時だけ頓服で飲む方法にするのも良いでしょう。
- 論文「気象変化に伴う頭痛に対する五苓散の有用性と安全性」
先日、頭痛学会で五苓散に関する論文の発表をさせて頂きました。少しだけ内容をご紹介します。気象変化(気圧・寒暖差・湿度)に伴う頭痛に対する五苓散の有効性と安全性を目的とし、①気象病があり、気象変化に伴う頭痛がある②初診以降も来院している、これら2つの条件を満たしている患者さんを対象としています。
五苓散の投与方法は、7.5mgを1日2~3回、食前または食間に経口投与としました(患者さんの年齢や体重、症状により量は適宜増減)。その結果、1週間あたりの頭痛の回数、頭痛の程度、鎮痛薬の使用回数、すべてにおいて有意な減少が認められました。特に、痛みの程度に関してはほぼ半減したというデータが出ております。この研究から、五苓散は、気象病で頭痛を訴える患者さんにとって症状をやわらげ、QOLを上げるのに役立つ漢方薬であるということが明らかになりました。
- 漢方以外で水の巡りを改善する方法
五苓散で水滞が改善する方でも、可能であればお薬は最小限にしたいですよね。普段の生活で水の巡りを良くする習慣も大切にしていきましょう。
[運動]
運動は、血の巡りが良くなり老廃物が溜まりにくくなるため、体の余分な水分も溜まりにくくなります。特に、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動は、全身の巡りが良くなり、むくみの予防・改善につながります。余分な水分は、重力に従って身体の下の方に溜まりやすいです。1日の終わりにふくらはぎをマッサージすると、疲労物質が血管に運ばれてむくみが改善されます。また、普段からストレッチの習慣や背骨を動かす運動(ヨガやピラティスなど)を継続していると、血行不良が起きにくい体になります。
[入浴]
入浴には、全身を温めて血流を改善する効果がありますが、静水圧作用といって、湯船の水圧が全身に加わることで血行を促進し、むくみを解消する効果もあります。身体に余分な水分が溜まっているということは、身体が冷えやすくなるということです。血流が悪くなり、身体に老廃物が溜まるため、入浴で日々の冷えをリセットすると良いでしょう。入浴は水の巡りに限らず、睡眠の質を上げたり、自律神経を整えたりと、さまざまな健康効果があります。
2025・6 気象病による頭痛の特徴とその対策
2025年6月10日 21:39更新
専門外来コラム
2025・6 気象病による頭痛の特徴とその対策
気温とともに湿度も上がり、梅雨の蒸し暑さを感じる日が増えてきました。5月から7月にかけての時期は、気象病の患者さんが増えていきます。気象病というのは、気圧や気温、湿度の変化により引き起こされる心身の不調のことです。正式な病名ではありませんが、「気象病」はここ数年でかなり身近な言葉になってきていると感じています。気象病は気のせいという訳でも、心の病気でもありません。しかし、検査で明らかな原因がわからないため、周囲の人からは理解されづらく、悩まれている方も多いでしょう。気象病は女性に多く、頭痛を訴える方が圧倒的に多いです。今回は、気象病による頭痛の特徴と対策についてご紹介します。
- 初夏から梅雨は気象病患者が最も多いシーズン
5月から7月の時期は、春から夏への移行時期、そして梅雨が始まります。最近は涼しくなったり暑くなったりと、気温の変化が激しいですよね。気圧の上下・気温の上昇・湿度の上昇が重なると、自律神経に負担がかかり体調を崩しやすくなります。この時期は、気温が上昇していくと同時に湿度も上がります。湿度が体感温度に与える影響は大きく、早い段階から想像以上の蒸し暑さを感じるようになります。
自律神経は私たちの体の体温調節を行っていますが、蒸し暑さにより汗が蒸発しづらい状況が続くと、熱がこもって頭痛や気分不快などの症状が出やすくなります。体温調整するために、すでに自律神経に負担がかかっている中、さらに気圧の上下がプラスされると、その負荷に耐えられず症状が出たり強く出たりします。
- 気象病で起こる2種類の頭痛
気象病の症状は様々ですが、8割以上の人が頭痛を訴えます。気象病で起こる頭痛は命には関わりません(一次性頭痛に分類されます)が、痛みによって生活に支障が出るため、辛い症状です。気圧の上下で頭痛が出る人、気圧の上下をきっかけに片頭痛の発作が起こる、緊張性頭痛が悪化する人などがいます。
[片頭痛]
片頭痛は、頭の片端もしくは両端がズキズキと強く痛むのが特徴です。緊張から解放されたとき、寒暖差、気圧変動など、なんらかの刺激によって脳の血管が拡張し、それが神経を刺激して痛みとして発生します。特に片頭痛が起こりやすいのは気温が急上昇したときと、気圧が下がった時です。気温の上昇、気圧の低下とともに副交感神経が優位に働き、血管が拡張して片頭痛が起こりやすくなります。寒暖差と気圧の上下が重なる季節は、常に頭痛に悩まされるという方もいます。
[緊張性頭痛]
緊張性頭痛は、全体的に頭を締め付けられているような鈍い痛みが出るのが特徴です。片頭痛とは異なり、左右差はありません。緊張性頭痛が起きるのは、気温が下がって身体が緊張した時や、気圧の変化でストレスを感じて交感神経が優位になった時です。身体が緊張したり交感神経が優位になると、首・肩の筋肉も収縮して首肩こりを引き起こし、それが頭に派生して頭痛になります。緊張性頭痛に悩まされている人は多く、患者さんからのニーズは高くありますが、片頭痛ほどは注目されていないため、薬の選択肢が増えないのも特徴です。
- 頭痛が起きた時の応急処置
[片頭痛]
片頭痛が起きた時は、とにかく刺激の少ない環境で横になって休むことをお勧めします。動いたり、お風呂などの血流が良くなることをしたりすると、ズキズキとした痛みの元になりますのでご注意ください。頭頂部やこめかみなどを氷枕で冷やすと症状が和らぐことがあります。首まで冷やしてしまうと全身が冷えて緊張してしまいますので気をつけましょう。
[緊張性頭痛]
緊張性頭痛の締め付けられているような痛みは、筋肉の過緊張によるものです。そのため、血行を良くしたり、心身の緊張を緩めたりすると頭痛を和らげることができます。首肩こりが関係していることが多いので、お風呂に首まで浸かり、ストレッチをしてみましょう。片頭痛は温めると悪化しますが、緊張性頭痛の場合は、温めて筋肉をほぐした方が効果があります。頭痛によって対処法が異なるためお気を付けください。
- 気象病は女性に多い
気象病に悩む方は、圧倒的に女性が多いです。実は気象病は、女性ホルモンと関係しています。月経周期や更年期などのホルモンの変化に伴い、気象関連の負荷がプラスされると、不調が起こりやすくなります。たとえば、生理前に片頭痛の症状が出やすい方は、気象病でも頭痛が頻発することがあります。女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが分泌されるには、脳にある視床下部という部分が関与しています。視床下部は自律神経の中枢でもあるため、気象病と女性ホルモン、自律神経は互いに切っても切れない関係なのです。不調の症状の種類も似ています。
- 頭痛の予防と改善のポイントは「首肩こり」
頭痛もち、気象病の方に共通しているのは、酷い首肩こりです。頭痛薬で痛みのコントロールをするのも1つの方法ですが、薬だけに頼らず、首肩こり対策をすることも重要です。私の外来では、セルフケアなどにより首肩こりが軽くなった患者さんは、薬の量も減っていきます。中には薬が全く要らないまでに頭痛が改善する方もいます。それほど首肩こりのセルフケアには意味があります。首肩こりが起こりやすい生活習慣の改善、ストレッチや背骨を動かす運動など、できることから実践してみてください。
首肩こりと不定愁訴-運動と漢方によるアプローチ②-
2025年5月8日 21:06更新
専門外来コラム
首肩こりと不定愁訴-運動と漢方によるアプローチ②-
前回のコラムでは、首肩こりの正体、そして首肩こりを引き起こす原因や生活習慣についてご紹介しました。では、自律神経失調症外来にいらっしゃる患者さんが首肩こりを解消すると、不調も一緒に改善していくのはなぜでしょうか?背骨や骨格のゆがみ、首肩こり(筋肉)、自律神経は、一見それぞれが独立した存在のように思われますが、実は関係し合っています。ストレートネックや猫背、反り腰など、程度の大小を考えなければ、骨格が乱れていない人はいません。特に首肩こりは日頃のセルフメンテナンスが結果として出やすい症状です。まずは自分の姿勢や骨格を知ることから始めてみましょう。
- 背骨は自律神経の通り道
背骨は、臼のような形をした小さな骨が連なって1本の背骨が構成されており、頚椎(首)・胸椎(胸)・腰椎(腰)・仙椎(お尻)と、部分によって名前がついています。特に、首には重要な神経がたくさん走っており、その中に自律神経も入っています。自律神経が通っているのは、背骨の中にある脊髄という場所です。交感神経は、胸髄(胸椎の部分)や腰髄(腰椎の部分)から出て背骨に沿うように走っており、副交感神経は、脳から首、腰のあたりから出ています。
背骨が歪んでいると、それだけ自律神経の通り道が妨げられてしまいます。背骨のゆがみが自律神経の不調の引きがねとなる理由の一つはここにあります。
- 首肩こり自律神経の不調や気象病との関係
[首肩こりによる血行不良が自律神経の働きを妨げる]
首こりで首の筋肉の血流が悪くなっていると、首を通っている副交感神経、そしてその先にある脳に十分な酸素や栄養が届かなくなってしまいます。その結果、副交感神経の働きを妨げることになります。また、肩・首・背中はさまざまな筋肉がつながってできているので、自覚の有無に関わらず、首が凝っていれば肩も凝っているでしょう。そして、背中の筋肉が緊張すると、そこから出ている交感神経に過度な刺激を与えてしまうかもしれません。
私は、気象病の対策を提案するのに、耳のマッサージだけではなく首や肩のストレッチもお勧めしています。自律神経が乱れている方は、それだけ気象病に対する耐性も低く、症状が出やすいです。首肩こりがあると自律神経の働きが低下するため、気象病を予防するためにも首肩こりのケアが必要なのです。
[呼吸への悪影響]
自律神経を整えるのにまず基本となるのが呼吸です。というのは、呼吸を整えることで、自ら交感神経と副交感神経を自分で調整することができるからです。息を吐くと副交感神経優位、息を吸うと交感神経優位に傾きます。自律神経が乱れて不調が出ている方は、大半が浅い呼吸をしており、本来の正しい呼吸ができていません。その原因の一つが、呼吸をするための筋群が凝り固まって動きが悪くなっているという点です。特に注目したいのは胸鎖乳突筋と斜角筋です。胸鎖乳突筋は耳の後ろから鎖骨にかけてつながっており、斜角筋は首の真横にあります。両者は息を吸うときに使う筋肉の一つで、硬くなると呼吸が浅くなります。ストレートネックなどで首や頭が前に出ている姿勢が続くと、これらの筋肉が硬くなり、呼吸のしづらい状態が当たり前になってしまいます。
- 首肩こりと漢方
首肩こりに効果的な漢方薬があるのをご存じでしょうか?葛根湯には、体を温め、冷えなどによる血行不良を改善するという効能があります。葛根湯といえば風邪のひきはじめに飲む印象が強いかもしれませんが、実は首肩こりにも使うことのできるお薬です。葛根湯には、クズ(葛根)、タイソウ、マオウ、カンゾウ、ケイヒ、シャクヤク、ショウキョウという生薬が含まれています。これらの成分が、体をじわじわと温め、特に頭や首周辺の筋肉の緊張を緩めてくれます。
私の外来では、首肩こりや体調不良が酷い患者さんに、セルフメンテナンスと併用して葛根湯を処方することがあります。漢方ではありませんが、首肩こりの症状や体調の重症度によっては筋弛緩薬やビタミン剤などを試すこともあります。
- 根本から治すなら脊椎全体を整える
首肩こりは日頃のメンテンナンスで差が出やすい場所です。いくら首肩を一生懸命ストレッチやマッサージをしても改善しない場合は、骨格のゆがみに理由があるかもしれません。
骨格のゆがみで代表的なのがストレートネックや猫背です。ストレートネックは、本来ゆるいカーブを描いているはずの頚椎がカーブを失ってまっすぐになっており、横から見ると、まっすぐ立っていても頭が前に出た姿勢になります。猫背は肩が内巻きになり(肩甲骨は外側に開いたような位置になります)、胸まわりの筋肉が硬くなっていることが多いです。胸椎の動きも悪くなっています。
土台である骨格が歪んでいると、自分にとって楽な姿勢をしているつもりでも、それを支える筋肉には負担がかかり、筋肉が伸びきって硬くなってしまっている可能性があります。そのような状態になってしまうと、凝っている部分をストレッチしただけではすぐに筋肉は元の血行不良の状態に戻ってしまいます。首は背骨の一部で下までつながっているので、背骨全体を整えて筋肉・骨格のメンテナンスをすることで、首肩こりを根本から改善することができます。急に背骨のケアと言われても難しいかもしれないので、まず基本として、「背骨の上に頭がポンっと乗っている感覚」というのを意識できることが大切です。
- まずは自分の姿勢を知ることから
ストレートネックや猫背、反り腰など、なんとなくは自覚していても、自分の背骨のカーブや動きの具合(可動域)がどの程度なのかを知る機会は少ないのではないかと思います。自分に必要な運動やメンテナンスをするために、まずはセルフチェックで自分の骨格について知りましょう。
[正面から縦の軸・横の軸のチェック]
身体のバランスを見るために、縦の軸と横の軸を考えます。鏡を見る前に3回ほど深呼吸をして力を抜きましょう。力んで姿勢を正そうとしてしまうと、普段の姿勢ではなくなってしまい評価がずれてしまいます。縦の軸とは、正面から見て眉間・アゴ・鎖骨と鎖骨の間、へそ、かかとの間の点を結んだ時の一本線です。背骨のラインも一緒にイメージできると良いでしょう。そして、横の軸とは、両耳をつないだ時にできる一本線です。その他にも、肩、骨盤、膝、くるぶしの位置もチェックすると良いと思います。
[壁を使って立ち方のチェック]
かかと、お尻、肩甲骨、の3点を壁に付けるように立ちましょう。力は抜いてリラックスした状態が好ましいです。見るべきポイントは2つです。
ⅰ壁に頭が付くか
ⅱ壁と腰の間にどのくらいすき間ができるか
大きくこの2点に分けて姿勢をチェックしてみましょう。頭は、後頭部が自然に壁に触れるのが理想的です。壁から離れてしまう方は、反り腰、猫背のどちらかの影響で頭の位置が前にずれてしまっているなどが疑われます。壁と腰の間のすき間は、壁と腰の間に指1本分のすき間ができる状態が理想です。すき間がこぶし1個分くらい空いている方は反り腰、逆にすき間がほぼできない方は猫背が強い可能性があります。背骨はお尻のあたりから1つずつ積みあがってS字にカーブを描いています。そのため、反り腰や猫背があると、首がバランスを取るために本来のカーブを無くします。こうしてできあがるのがストレートネックです。ストレートネックの方は、首だけが悪いというケースは少なく、反り腰や骨盤後傾、猫背など首より下の部分が大元の問題となっていることが多いです。
[頚椎(首)・肩・胸椎・腰・股関節]
ここまで読んで背骨全体を整える必要があるとわかって頂いた方は、背骨を頚椎(首)・肩・胸椎・腰・股関節に分けてメンテナンスをしてみましょう。細かく分けて評価をしてみると、自分の弱い部分、たとえば「胸椎が硬い」、「股関節の動きに左右差がある」などと気づくことができ、エクササイズも効果的に行うことができます。書籍「不調がデフォな私たちの背骨リセット」に詳細のチェック方法やエクササイズが載っていますので、これから小出しでご紹介していく予定です。
首肩こりと不定愁訴-運動と漢方によるアプローチ①-
2025年4月8日 12:30更新
専門外来コラム
首肩こりと不定愁訴-運動と漢方によるアプローチ①-
首肩こりは日本人の国民病とも言われています。スマートフォンの普及やデスクワーク・在宅ワークの増加により、首肩こりが当たり前のように感じている方も多くお見掛けします。首肩こりは私たちの日常生活を妨げる不快な症状ですが、それを発端にさまざまな不定愁訴が起こっているということは、あまり知られていないようです。気象病・自律神経失調症専門外来に来る患者さんは皆、強い首肩こり持ちです。しかし、自覚すらない場合が多く、頭痛やめまい、全身倦怠感、吐き気など他の症状を主訴として受診されています。首肩こりの対処法に関する情報が飛び交っているものの、何が正しいのか判断が付き兼ねることもあるのではないでしょうか。まずは首肩こりがどのようにして起きているのかを知って頂き、ご自身に合った解消法を見つけましょう。
- 首肩こりの正体は?
首肩こりの「こり(凝り)」というのは、特定の筋肉の使い過ぎや筋力不足などによって筋肉の過緊張が続き、血行が悪くなっている状態です。つまり、首肩こりは、首肩まわりの筋肉が血行不良になっているということです。そもそも首は5㎏前後の頭を支えており、元々大きな負荷がかかりやすい場所です。私たち現代人は、長時間うつむき姿勢をする生活が定着してしまいました。うつむき姿勢は首肩まわりの筋肉に大きな負担がかかるので、首肩こりに悩まされる人が多いのも当然と言えるでしょう。首肩まわりの血液の循環が悪くなっていると、その部分に酸素や栄養が十分に行き届かなくなります。それだけではなく、老廃物が溜まりやすく、痛みにつながります。
- 首肩こりを引き起こす要因5つ
[①不良姿勢・骨格のゆがみ]
姿勢が悪いと、首肩まわりの筋肉に過度の負荷がかかり続けることになります。デスクワークやスマホを触っている時の姿勢は、頭がやや下がり、それを首肩で支えている状態です。痛みや凝りを感じていない時でも、首肩にはかなりの負担がかかっています。
首や頭が前に出ている姿勢が続くと、首肩をつなぐ胸鎖乳突筋という筋肉が硬くなります。骨格が歪んでいてストレートネックや猫背などがある方は、本人はまっすぐに立っているつもりでも、すでに頭が前に出てしまっています。すると、首肩まわりの筋肉は常に負担がかかっていて休まる暇もありません。
[②筋力不足]
重い荷物を持ったときを想像してみてください。荷物を持つための筋肉に過度な緊張が加わり、腕が痛くなったり張ったりすることがあると思います。首肩も同じです。そもそも筋力が足りていないと使い過ぎの状態になり、筋肉が伸びた状態で固まってしまっています。いくらストレッチしてメンテナンスを頑張っている人でも、筋力が不足していると首肩こりがすぐに起きてしまうのです。首肩こりによる不調が起こりやすいのは、首が細く、なで肩、そして女性であることが多いのをご存じでしょうか。というのは、女性は本来男性よりも筋肉量が少ないので、筋力不足による首肩こりを引き起こしやすいということです。
[③運動不足・誤ったメンテナンス]
運動不足の人は体を積極的に動かす機会が無いため、首肩まわりだけでなく、体全体が凝り固まってしまっている場合が多いです。一方、運動習慣のある人はさまざまな筋肉を動かし、血液の循環も良くなるため、筋肉の凝り固まり加減が変わってきます。たとえば水泳は、水を押しのけるために腕全体を回したり動かしたりますよね。この動きは肩甲骨がよく動くので、首肩こり対策には良い動きです。
また、首肩こりの原因が筋力不足にあるにも関わらず、ストレッチしかできていない場合、ストレッチというメンテナンスでは不十分です。もしも「毎日欠かさずストレッチしているのに首肩こりが治らない!」という人は、ストレッチはできていても、姿勢を維持するための筋力が足りなかったり、体のバランスが悪かったりと他にも問題があり、メンテナンス方法がご自身に合っていないのかもしれません。
[④自律神経が乱れている・ストレス]
自律神経と首肩こりはお互いに影響し合っています。というのは、「自律神経が乱れる→首肩こりが起こる」「首肩こりが酷い→自律神経が乱れやすくなる」という双方向の関係です。せたがや内科の自律神経失調症専門外来には、頭痛やめまい、倦怠感など全身にさまざまな不調が出ており、ご自身で自覚ができないほどに首肩が凝っている患者さんが多くいらっしゃいます。ストレス等で自律神経が乱れて首肩が凝り、余計に自律神経が整えづらくなって負の連鎖が起こってしまうのです。そのような方は、首肩こりを改善するストレッチやエクササイズを実施すると不調も良くなることが多いです。
[⑤血行不良]
首肩こりの正体は首肩まわりの筋肉の血行不良ですが、そもそも体全体が血行不良に陥っていると、首肩こりを引き起こしやすい体質になります。血行不良の原因はさまざまですが、体が冷えていると冷えた血液が全身を巡り、循環も悪くなっていきます。特に首は露出していることが多く冷えやすい場所でもあるので、首を温めたりお風呂に入ることが有効です。血行不良は冷えだけでなく、ストレスや運動不足でも起こります。そのため、上記の5つは独立しているというよりかは、それぞれが影響し合っていると考えた方が良いでしょう。
- 治療の選択肢は漢方、ストレッチ、運動
一時的に血行不良を解消する方法はありますが、それでも慢性的に首肩こりに悩まされているという方は、生活習慣に問題があったり、骨格にゆがみが生じて改善しづらい体になっていたりする可能性があります。その場合は、首肩まわりを軽くストレッチするだけではメンテナンスが足りないかもしれません。根本的に治したいという方は、漢方薬の併用や、背骨全体のメンテナンスをする必要があります。(次回のコラムで詳しく書いていきます)
自律神経が乱れやすい春の不調とメンタルケア
2025年3月4日 08:06更新
専門外来コラム
自律神経が乱れやすい春の不調とメンタルケア
春といえば、厳しい寒さから解放されて桜の開花を待つ季節。ポジティブなイメージが強いですが、実は自律神経にとって春は厳しい環境です。春は寒気と暖気が交互に訪れるため、暖かさを感じる日もあれば肌寒さを感じる日があり、日々の気温の変化が大きくなります。激しく上下する気温の変化に振り回されているところに、爆弾低気圧と呼ばれる急激な気圧低下が発生するのも春の特徴です。とにかく気候変化が目まぐるしいため、「変化」を大の苦手とする自律神経にとっては、かなり無理を強いられる季節です。そして、体調が不安定になりやすい時こそ気をつけたいのがメンタル面の健康です。気候変動が激しいだけで心の容量が少なくなり、普段は平気なストレスでも耐えられなくなってしまう、という事態もあり得ます。今回のコラムが自分を大切にするきっかけになると幸いです。
- 春に気をつけたい4つの不調
[寒暖差疲労]
春は肌寒い日と暖かい日が交互に訪れるため、前日と当日との寒暖差、1週間単位での寒暖差が大きいのが特徴です。さらに、朝晩は冬の名残を感じる冷え込み、日中は最高気温が20℃前後の暖かさになるので、1日のうちで寒と暖の両方を感じ、体温調節機能を担当している自律神経は大忙しです。寒暖差疲労の症状は主に、冷え性、疲労感・倦怠感、首肩こり、頭痛、メンタルの不調、のぼせなどです。「心当たりがないのになんとなく調子が悪い」という方は寒暖差疲労の可能性があります。
[頭痛]
頭痛といえば大きく緊張性頭痛・片頭痛の2つに分けられますが(命に関わらない頭痛の場合)、春はこの両方が発症しやすい気候です。暖→寒の影響で体が収縮すると緊張性頭痛、寒→暖で血管が拡張すると片頭痛が起こりやすくなります。緊張性頭痛は血行を良くする方法が有効なので、温めたり首肩をマッサージ・ストレッチしたりすることで痛みを和らげることができます。一方で、片頭痛は急に血行が促された時に発作が起きやすいため、痛みが酷くて動けなくなった時は温めてはいけません。疼痛部を冷やすと一時的に痛みが緩和される場合もありますが、まずは暗い静かな部屋で安静にするのが優先です。緊張性頭痛と片頭痛では対処方法が異なりますので、どちらも症状があるという方は日頃のメンテナンスと症状が出た時の対処法を上手に使い分けていきましょう。
[花粉症]
今年は花粉の飛散が1月末(関東)に確認されましたが、気温が上昇し本格的にスギ花粉が飛び始めるのが3月です。花粉症の症状は鼻水・鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなど。最近では花粉による皮膚炎も増加しています。花粉症は一種のアレルギーなので、薬などで症状を緩和することができます。辛い方は早めに治療をして対策しましょう。
[メンタル]
春はメンタルを崩しやすい代表的なシーズンです。気候の変化、環境の変化が大きく、自律神経が乱れやすい要因がたくさんあります。冬は寒さの影響で交感神経が優位に働き緊張状態が続きますが、春になると副交感神経が優位になり、自動的に無気力状態になりやすいです。やる気が出ずに気持ちが上がらないことがあります。そんな中で寒暖差や気圧の上下も激しいので、気象病の症状として急に不安や落ち込みが激しくなることもあります。年度の変わり目で人間関係や居場所も新しくなる機会も多いので、ストレスを感じる季節です。女性は貧血が重なるとメンタルを保つことがより難しくなります。
- 運動のメンタル効果
運動は、実はうつ病や不安症の治療に用いられるほどメンタル面に良い効果をもたらすと言われています。運動をすると“幸せホルモン”と呼ばれている物質の一つであるエンドルフィンが出るため、気分が上向きます。その他にも運動によって多くの脳内物質が活性化され、不安が和らぐ、やる気が出るなどの効果が得られます。さらに、定期的に運動習慣(例えば20分のランニングを週3回続ける)を付けると、脳の構造や神経系にも変化をもたらし、記憶力の向上や喜びを感じやすくなるなど、メンタル面において好循環をもたらします。人間は本来動くようにできています。心も身体も人間らしい生活を目指すことは、自律神経を整えるための最善策でもあります。運動が苦手な方もいると思いますので、まずは自分の好きな運動・できそうなことから始めましょう。
- メンタルの安定はストレスマネジメントから
[自分を取りまくストレスを整理する]
気候変動(気圧、寒暖差など)、環境、人間関係、体調不良、個人的な悩み事など、私たちはさまざまなストレスに囲まれて生活しています。忙しく生活に追われていると、自分のストレスに気づくこともなく突然に限界を迎えてしまう方も少なくありません。まずは自分の状況を俯瞰で見て整理しましょう。その次に、「変えられるもの」「自分で減らせるもの」から変えてストレスのバランスを取ると良いかもしれません。
[“趣味を持つ”という余白を作る]
自分の好きなことをする時間がある方はどのくらいいるでしょうか?幸福を感じて生きている人の8割は、趣味があると言われています。趣味がメンタルヘルスを向上させるという事実は、さまざまな研究でわかっています。好きなことに没頭する時間は、仕事や心配事から解放される時間でもあります。逆に、趣味の時間が取れないという方は、それだけ時間にも心にも余白が無いという印でもあります。余裕のない生活はそれだけ自律神経にも負担がかかっているということです。趣味と言ってしまうと敷居が上がってしまうという場合は、生活の中で「気持ちが上がる」「心が躍る」瞬間を見つけてみましょう。好きなことを見つけている時間は、ストレスから解放される大切な時間ですね。
参考文献:
「スタンフォード式 人生を変える運動の科学」2020.4 大和書房. ケリー・マクゴニガル著
「不調にさよなら!自律神経を整える50のこと」2024.6宝島社. 久手堅司 監修
「毎日がラクになる!自律神経が整う本」2022.6 宝島社. 久手堅司 監修
寒暖差疲労対策~春に向けて実践したい運動~
2025年2月8日 14:16更新
専門外来コラム
寒暖差疲労対策~春に向けて実践したい運動~
1月下旬頃から、突然春のように気温が上がったり再び真冬の寒さに戻ったりと、寒暖差を肌で感じる日が多くなってきました。気象病や自律神経の乱れによる体調不良を抱えている人の中には、寒暖差による心身への影響が出はじめているのではないでしょうか?一般的には寒暖差は春・秋に注目されるイベントではありますが、年々寒暖差が気になる時期は長くなっているように思います。寒暖差による不調は低気圧によるものよりも少々自覚するのが難しく、対策も曖昧なところがありますが、生活の中で工夫すると過ごしやすくなるのは確かです。冬から春に向けて行いたい寒暖差対策についてご紹介します。
・寒暖差疲労は冬からスタート
最近の関東の気温の推移は、最低気温が0℃前後、日中10℃超えのパターンが多いです。この場合、1日の気温差が10℃近くになります。気温差が7~8℃以上になると寒暖差の影響を受けやすいとされているので、朝晩は厳しい冷え込み、日中はやや日差しを感じる暖かさとなり寒暖差を体感します。今年は年末年始にインフルエンザやコロナ・発熱を伴う風邪が大々的に流行したため免疫力や体力が弱っており、自律神経が乱れやすくなっている状態の人が多いでしょう。ご自身が想定していた以上に身体や心に負担がかかっていることがありますので寒暖差に負けないように対策をして頂きたいところです。
・トリプル寒暖差とは?
一時、「トリプル寒暖差」という言葉が注目されました。
▹1日の中での気温差
▹前日との気温差
▹室内外での寒暖差(家の中、電車の出入りなど)
トリプル寒暖差とは上記3つの寒暖差を指します。外気温が上下すると、それに適応するために自律神経が機能します。私たち人間の体温は一定に保たれているので、気温の変化に左右されずに一定の体温を保つため、気温差が大きいほど自律神経がたくさん働かなくてはなりません。1つの寒暖差だけでも体に負担がかかりますが、それがトリプルとなって積み重なると、とても不調の出やすい状況ができあがります。
・冬にやっておきたい寒暖差対策
[食事と睡眠で自律神経のベース作り]
2月は、年末年始の繁忙期を終えてやっと一息つくところでしょうか。冬の間に整えておきたいのが、規則正しい生活習慣です。基本的なことですが、その基本が自律神経の大切な土台を作ります。まずは食事と睡眠。食事は朝・昼・夜少しでも食べて体に規則正しいリズムを付けることから始めましょう。食べたり食べなかったりすると、血糖値の上下が激しくなり自律神経に負担がかかります。時間が無くて夜に食べ過ぎてしまうと消化にエネルギーが必要になり睡眠の質が落ちますので1回や2回にまとめて食べるのもお勧めできません。胃腸の調子を整えるためにはヨーグルトなどの乳酸菌、お米、カボチャ、豆や芋、食物繊維などを意識して食べると良いでしょう。
睡眠は自律神経を整え、心身の回復を図るために最も有効な方法です。今の季節は寒さや乾燥で睡眠が妨げられやすいです。眠る前(90分前がベストです)には入浴でしっかりと身体を温め、深部体温が下がるタイミングで寝床に入ると入眠しやすくなります。乾燥しすぎているようであれば加湿器を使用したり洗濯物を干したりして寝ると良いでしょう。また、寝床が冷たすぎると逆に身体が冷えすぎてしまうので、布団乾燥機などで少し温めておくと暑すぎず寒すぎず眠れると思います。
[寒暖差に合わせた服装調節]
冬の寒暖差で特徴的なのは、室内外・室内での寒暖差が大きくなることです。家の中と外だけにとどまらず、家の中では浴室やリビング、寝室などの気温差が大きく、行ったり来たりするだけで自律神経に負担がかかります。また、外では電車に乗る方は要注意です。駅のホームは外同様に寒いですが、電車の中は暖かくのぼせやすい環境です。寒さ対策として首が付く場所を守ることを推奨していますが、急に暖かい環境に出る時はマフラーなどを外すだけでも余計な体温が逃げやすくなります。服装の調節をするだけでも快適さが変わり、気分が悪くなったりするのを防げると思います。
・春に向けて実践したい運動
春に起こり得る気象病の症状として特徴的なのが倦怠感です。春は「寒さ→暖かさ」へと変わる時期であるため、副交感神経の働きが強く感じるようになります。ほどよく副交感神経優位だとリラックス状態なのですが、緊張が緩み過ぎてしまうと怠さや眠気が出てしまいます。また、外気の暖かさに対して体温が上がり過ぎないように、汗をかいて体温調整をする必要もあります。体を程よく緊張させ、そして汗をかく練習のためにも春に向けて運動を始めたいところです。
[まず浮腫みを取る]
冬の間、動くのが億劫で運動不足だった人は、全身がやや浮腫んでいる可能性があります。体に水分が溜まり過ぎていると、体温調節がしづらくなったり冷えやすくなったりして不調の原因になります。
浮腫みを取るには①ふくらはぎをストレッチ→②下半身を使う全身運動をお勧めします。ふくらはぎは“第二の心臓”と呼ばれていて、下半身に溜まった血液を心臓へと元に戻すポンプのような役割をしています。ふくらはぎが凝り固まって血行不良だったり筋力不足だったりすると、下半身に余分な水分が溜まりやすくなります。まずはふくらはぎや膝の裏あたりをテニスボールでゴロゴロ。ふくらはぎの動きを良くすると良いでしょう。次に全身運動です。簡単なものだとウォーキング、もう少し負荷をかけられるのであればジョギングや水泳などをすると全身の血流が良くなります。軽く汗をかく程度まで頑張れると、汗をかく練習にもなります。浮腫みが取れると体が軽くなったように感じると思いますので、春の倦怠感も予防できます。
[背骨のメンテナンスで自律神経を強くする]
背骨と自律神経には深く関係があります。自律神経の通り道をメンテナンスする癖を付けることで基盤をしっかりとしたり、キャパシティーを増やすことにつながります。特に首は自律神経にとって最も重要と言って良いほど大切な場所です。今回は首のケアから。賀来大樹さんとの共書籍「不調がデフォな私たちの背骨リセット」の中で患者さんに好評のエクササイズを紹介します。
・後頭下筋ほぐし(背骨リセットP24)
イスに座り、頭と首の境目の部分が刺激されるようにもたれかかります。20秒ほどを目安に行いましょう。
・モビライゼーション
後頭下筋をほぐしたら、足を腰幅に開いて立ち、腕を真横に大きく広げます。
左手と右手が交互に下になるように腕をひねりながら、同時に、首をひねって親指が上を向いている方の手の方を向きます。手は上・下、首は右・左、とリズムよく20秒続けましょう。
本来であれば一通りメニューをこなして頂きたいところですが、上記2つはその場で簡単にできるのではじめの一歩としてもお勧めです。首まわりが楽になり動きが改善されるので、頭痛やめまい・眼精疲労などの予防に役立ちます。首肩こりのエクササイズを行う時、腸腰筋(背骨と骨盤をつなげる筋肉)という筋肉のストレッチをしてから行うと、より効果が出ますので試してみてください。
2025・1コラム 入浴のすすめと冬のメンテナンス
2025年1月18日 13:48更新
専門外来コラム
2025・1コラム 入浴のすすめと冬のメンテナンス
今年度の冬は乾燥が強く(関東)、昨年よりも寒さが強く感じるように思います。一般的には、年が明けてから2月あたりにかけて、寒さは本格化していきます。この期間は気温や気圧の上下が比較的小さく、異例の寒暖差などがない限りは、気象病が少し楽になる季節です。しかし、極寒ではあるので冷えによる不調には注意が必要です。よく言われている「冷えは万病のもと」というのは本当の話で、体を冷やしてしまうと血流が悪くなり、さまざまな体調不良が起こりやすくなります。そこで私がお勧めしているのが入浴習慣です。日本人にとって馴染み深い入浴ですが、海外では身体の調子を整える手段として温泉療法があるほど効能が注目されています。
- 冬は気象病が楽に感じる季節
冬の気候は太平洋側と日本海側では特徴が異なりますが、おおむね気圧の変化が小さく、1日中寒いので寒暖差も感じにくいです。寒暖差疲労が起こりやすいのは、気温差が7℃以上に開き、朝-日中-夜で体感する温度が大きく変わる状況にある時です。最近では異例の寒暖差が起こることがありますが、特別な場合除いては、1月を過ぎてからは日中でも寒いので、寒暖差による影響は少なくなります。気になるのは乾燥や咳喘息、感染症の流行などです。今年はインフルエンザやコロナなどの感染症が爆発的に流行していました。一方で、気象病でクリニックを受診する患者さんは減るシーズンです。
- 寒さによって気をつけたい不調は?
気象病の症状が出にくいとはいえ、寒さによる不調には注意が必要です。特に目立つのが冷え、首肩こり、頭痛、息苦しさなどです。体が冷えると血行不良になり、全身の酸素や栄養の巡りが悪くなります。そして、全身の緊張が高まるので体の柔軟性が落ち、動きも悪くなります。体が冷えている時に「なんとなく調子が出ない」というのを感じるのはこれらが影響しているかもしれません。冷えた血液が胃腸に回るとお腹を壊したり胃が痛くなったりと胃腸の不調も出やすくなります。
人は寒さを感じると、血管を収縮させて筋肉が縮こまり、体温を上げようとします。寒さで体が縮こまると起こりやすいのが首肩こりと、それに伴う緊張型頭痛です。寒い環境で眠っていると「朝起きたら首肩がガチガチになっていた」という方も多いと思います。頭と首肩の筋肉が繋がっていることもあり、首肩こりが酷くなると頭痛も発生しやすくなるのです。
寒さによる緊張は体だけでなく心にも影響しています。寒いと交感神経が優位に働くので呼吸が浅くなりやすく、息苦しさなど呼吸器系の症状を感じやすくなります。寒い時こそリラックスを心がけたいですね。
- 入浴の効果
冷えによる不調を予防するためには入浴習慣をお勧めします。入浴の効果は実に幅広く、私は寒暖差疲労の対策や自律神経を整えるための方法の一つとしても入浴を推奨しています。入浴というのは、お風呂の浴槽に浸かってゆっくり温まることです。入浴には自律神経を整える、冷えの解消、血流の促進、心身のリラックス、安眠などさまざまな効果があります。今の季節は乾燥も気になるので、湯気が立った浴室の中で深呼吸をすると鼻や喉の粘膜が潤い呼吸もしやすいでしょう。
私たち日本人にとって、入浴はありふれた日常生活の一つかもしれません。しかし、入浴習慣をつけることで「何となく調子が良くなった」「よく眠れる」「冷えが取れる」というような変化をすぐに感じられるケースは多いです。冷えが解消されて血流が良くなり、ほどよいリラックス効果で睡眠の質が上がると、疲労の回復も十分に行われます。忙しい生活をしている人にとっては、お風呂にゆっくり入る時間を確保することは案外難しいのかもしれません。思い立った時だけでも良いのでお湯を溜めてみることから始めましょう。
- 入浴の後はストレッチで全体をメンテナンス
入浴後は全身が温まって血流が良くなっているので、ストレッチを効果的に行うことができます。入浴で1日の冷えを取り、ストレッチで1日の凝りを取れば、十分に体のメンテナンスになります。睡眠の質もより高くなるので体が軽くなったように感じると思います。不眠でお悩みの方や疲れが取れないと感じている人は、「不調がデフォな私たちの 背骨リセット」P114・115に載っている“不眠を改善するメニュー”も合わせて行うと良いでしょう。ただし、就寝前に動きすぎてしまうと交感神経が優位になって頭が興奮してしまうので、ゆったり体を伸ばす程度にしてくださいね。
- 運動と組み合わせると健康効果がアップ
自律神経を整えて調子を良くするためには、やはり食事・運動・睡眠をベースとした規則正しい生活が一番です。シンプルに運動で体を動かして全身を疲れさせるとお腹も空きますし、心地の良い疲労感で夜もぐっすり眠ることができます。学校や仕事で忙しくしていると机に向かっている時間が長く、身体よりも頭が疲れている事が多いことがあります。運動の習慣が無い人は、まずは座っている時間を減らす、エスカレーターを階段にする、通勤・通学の歩く距離を少し長くする、などの小さなことから始めるだけでも違います。もう少し頑張れそうな人は、1日20分以上の有酸素運動、例えばジョギングやサイクリング、水泳などを取り入れて体を動かす習慣を付けると、健康効果がアップするでしょう。
12月 不調とストレッチの効果について
2024年12月9日 07:24更新
専門外来コラム
12月 不調とストレッチの効果について
ストレッチは私たちの健康や日常に欠かせない運動のひとつです。私たちの体は何もしなければ、大人になるにつれてどんどん硬くなったり歪んだりしていきます。そもそも人体の構造は不安定にできており、その状態で長時間のデスクワークや身体に負担がかかる生活を強いられています。「日本人は働きすぎ」と言われていますし、心身のメンテナンスをする時間を取るのが難しい人ばかりのようにも思います。
私は、体のメンテナンスの第一歩がストレッチと考えています。実は、ストレッチは、ただ筋肉を伸ばすだけではありません。今回の記事を読んで、今までストレッチをする習慣が無い人は少しでもストレッチを日常に取り入れられるように、すでに習慣づけられている人は今まで以上に意味のあるストレッチができるようになって頂けると幸いです。
- ストレッチの効果
ストレッチを継続して習慣化することによる効果は実にさまざまです。筋肉の緊張の緩和や可動域の拡大、凝りの解消など、身体的な機能を改善する効果もあれば、リラックスなどの精神面での効果、そして、ケガの予防・疲れにくい体づくりなどの健康増進の効果もあります。
身体の凝りの正体は主に筋肉の血行不良と酸素不足です。特定の筋肉の使い過ぎや誤った身体の使い方・姿勢、運動不足などの影響で筋肉が硬くなります。ストレッチをして痛みを感じる方は筋肉がこわばって硬くなり、血行が悪くなっています。
筋肉の過度な緊張を改善すると血流が良くなるので、酸素や栄養が行き届きやすくなります。筋肉に十分な酸素や栄養が巡るようになると、硬くなった筋肉に弾力が出てくるので動きもなめらかになっていきます。身体の可動域が広がると「体が軽くなった」「疲れにくくなった」と感じるようになり、不調の解消や予防につながります。ストレッチは身体だけでなくメンタル面にも効果もあります。ゆっくり呼吸をしながらストレッチに集中すると、自分の感情の乱れを落ち着かせることができるでしょう。
- 2種類のストレッチ
[静的ストレッチ]
一般的に、ストレッチといったら静的ストレッチを思い浮かべる方が多いでしょう。ストレッチしたい筋肉をゆっくり少しずつ伸ばす動きをします。静的ストレッチは主に、運動に不慣れな方や不調が強い方などに向いています。
[動的ストレッチ]
ただ伸ばすのではなく、動きを伴うストレッチです。動きが加わることでほぐしたい筋肉の血流を促し、筋肉の温度が上がります。たとえば肩こりがある方は、伸びたまま固まっているケースが多いです。極端に筋肉が硬くなっている場合を除きますが、軽い首肩こりには動的ストレッチが適しています。首まわし、肩まわしなどを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。首が細くて長い女性は首まわりの筋力不足によって伸びたまま凝り固まってしまっている代表例です。
- せたがや内科で推奨しているストレッチ
不調の引きがねとなりやすいのが首肩こりです。首肩こりは、首肩周りの筋肉に過剰な負担がかかることによって起こります。原因は、使い過ぎ、筋力不足、姿勢不良など人によって様々ですが、首肩まわりの筋肉が凝り固まって酸素不足の状態になると、首とつながっている脳にも十分な酸素が回りません。頭のまわりも筋肉で覆われているので、首肩こりから派生して緊張性頭痛の原因にもなります。せたがや内科では、まずは全身の骨格・筋肉のバランスや凝りの具合を評価した後、首肩を中心とした凝りをほぐして、筋肉の酸素不足を解消するところから始めます。患者さんの状態によって内容は変わりますが、状態に応じて処方や指導をさせて頂いています。
- ストレッチ中は呼吸を止めないことがポイントです
短距離走や重い荷物を持ちあげるとき、私たちは無意識のうちに呼吸を止めています。その理由は、息を止めないと筋肉は最大のパワーを出せないからです。逆に、筋肉を最大に緩めてストレッチの効果を出すためには、呼吸を止めないことが重要なポイントになります。呼吸によって筋肉に酸素が行き渡ると、心身ともに緊張もほぐれます。体調が優れない方は根っこの原因が何であれ、ストレス過多の状態です。体の酸素不足はストレスや不眠の一因でもあるので、呼吸がうまくできること、呼吸を意識する習慣をつけることは体調を快方に導くために大切です。呼吸には自律神経の乱れを改善する効果もあります。
- ストレッチが習慣化できたら全身のメンテナンスを
せたがや内科の自律神経失調症・首肩こり・気象病専門外来では、体調が悪く、やっとのことで仕事や生活をされている患者さんが多いです。そのため、最初は応急処置として呼吸法やストレッチを最優先で実践していただいています。しかし、不調をより根本から治していきたい場合はストレッチだけでは足りません。緩める場所は凝りをほぐし、強化するべき場所は鍛えたりして、全身を整えていくことが大切です。パーソナルトレーナー賀来大樹さんとの共著書「不調がデフォな私たちの“背骨リセット”」に書いてあるように、ストレッチだけではなく背骨を中心として全身のメンテナンスに目を向けていきましょう。自律神経の機能の向上、不調の改善、全体的なパフォーマンスの底上げなどにつながっていきます。
≪参考≫
・「ストレッチングアナトミィ―ドラヴィエの図解と実践―」著フレデリック・ドラヴィエ、ジャン=ピエール・クレマンソー、マイケル・グンネル.2021.8.ガイアブックス
・「背骨リセット」著久手堅司・賀来大樹.2024.10.主婦と生活者
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