― 起立性調節障害と不登校の関係 ―
夏休みが終わり、新学期が始まる時期になると、
「朝、どうしても起きられない」
「学校へ行こうとすると頭痛や吐き気がする」
「午前中は動けないのに、午後になると元気になる」
「夏休み中は元気だったのに、学校が始まった途端に体調を崩した」
といった症状で受診する中学生・高校生が増えてきます。
保護者の方からすると、「夏休み中に生活リズムが乱れてしまったのでは?」「学校に行きたくないだけなのでは?」と感じることもあるかもしれません。
しかし、このような症状の背景に起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)が隠れていることがあります。
特に夏休み明けは、起立性調節障害の症状が表面化しやすい時期の一つです。
起立性調節障害とは?
起立性調節障害は、立ち上がったときの血圧や心拍数などを調整する自律神経の働きがうまくいかなくなることで起こる病気です。
人間は横になった状態から立ち上がると、重力によって血液が下半身に移動します。通常であれば、自律神経が血管を収縮させたり、心拍数を調整したりすることで、脳への血流を保ちます。
ところが起立性調節障害では、この調節が十分に行われません。そのため、朝起きられない、立ちくらみ、めまい、頭痛、動悸、倦怠感、吐き気、食欲不振、集中力の低下など、さまざまな症状が現れます。
思春期は身体が大きく成長する一方で、自律神経の調節機能がまだ不安定な時期です。そのため、起立性調節障害は小学校高学年から中学生、高校生くらいの年代に多くみられます。
なぜ「朝」がつらいのでしょうか?
起立性調節障害の大きな特徴が、朝から午前中に症状が強く、午後になると少しずつ元気になることです。
朝はもともと血圧が低くなりやすく、自律神経も睡眠モードから活動モードへ切り替わる時間帯です。起立性調節障害があると、この切り替えがスムーズにできません。
そのため朝はベッドから起き上がることさえ難しいのに、午後から夕方になると普通に会話をしたり、スマートフォンを見たり、場合によっては外出できたりすることがあります。
この状態を見ると、ご家族は「学校には行けないのに、午後は元気なの?」と疑問に感じるかもしれません。
しかし、起立性調節障害では決して珍しいことではありません。
時間帯によって症状が大きく変化すること自体が、この病気の特徴の一つなのです。
夏休み明けに悪化しやすい理由:
夏休みは学校がある時期に比べて、起床時間や就寝時間が遅くなりがちです。
さらに近年の夏は猛暑が続き、外出する機会や運動量が減少します。暑さによる発汗や水分不足も加わります。
こうした「生活リズムの変化+運動不足+暑さ+脱水」が重なることで、自律神経のバランスが崩れやすくなります。
そこへ新学期が始まり、突然「朝7時に起きて学校へ行く」という生活に戻ろうとすると、身体が対応できないことがあります。
さらに、学校生活への緊張、人間関係、勉強、部活動などの心理的ストレスも自律神経に影響します。つまり夏休み明けは、身体的な要因と心理的な要因の両方が重なりやすい時期なのです。
起立性調節障害と「不登校」:
起立性調節障害と不登校は、非常に密接な関係があります。
朝起きられないため遅刻が増える。頭痛や吐き気があるため欠席する。欠席が増えることで授業についていけなくなる。「また休んでしまった」という焦りが強くなる。友人や先生にどう思われているのか気になる。
そして、さらに学校へ行きにくくなる――。
このような悪循環に入ってしまうことがあります。
ここで大切なのは、「身体の問題」と「心の問題」を無理に分けないことです。「心身一体」です。
起立性調節障害という身体的な問題がきっかけとなって学校へ行けなくなり、その状態が長く続くことで不安や気分の落ち込みが加わることもあります。反対に、学校生活でのストレスや不安が自律神経に影響し、身体症状を悪化させる場合もあります。
身体と心は互いに影響し合っています。
「怠けている」と決めつけないことが大切です。
起立性調節障害の子どもたちが特につらく感じるのが、「夜更かししているから朝起きられない」「気合いが足りない」「学校に行きたくないだけ」と言われてしまうことです。
もちろん生活習慣を整えることは非常に重要です。しかし、本人が「起きたい」「学校へ行きたい」と思っていても、身体が思うように動かないことがあります。
朝起きられない状態が続いたときに、本人を強く責めてしまうと、自己肯定感が低下し、さらに学校へ戻りにくくなってしまうことがあります。
まずは身体に何が起こっているのかを確認することが大切です。
医療機関では何を調べるのでしょうか?
朝起きられない、立ちくらみ、頭痛、動悸などが続いている場合には、起立性調節障害の可能性を考えて診察を行います。
症状や生活状況について詳しくお話を伺い、必要に応じて横になった状態と立った状態での血圧・心拍数の変化などを確認します。
また、「朝起きられない=すべて起立性調節障害」というわけではありません。貧血、甲状腺疾患、睡眠障害など、別の病気が隠れていないかを確認することも重要です。
頭痛が強い場合には、片頭痛などが併存していることもあります。
治療は「薬だけ」ではありません。
起立性調節障害の治療では、生活習慣の調整が非常に重要です。
①十分な水分を摂ること。
②必要に応じて塩分を適切に摂ること。
③朝食をできるだけ摂ること。
④午前中に太陽光を浴びる。
⑤急に立ち上がらないこと。
⑥電車などで立っていると症状が出やすいので、気を付ける。
⑦昼夜逆転をできるだけ避けること。
⑧無理のない範囲で身体を動かすこと。
⑨睡眠リズムを整えることなどを意識します。
⑩スマートフォンやタブレットを寝室に持ち込まない。




